黒子のバスケ


あらゆることで誰にも負けたことがないと豪語する赤ちんはまさにその通りで、バスケでも何でも俺が敵うはずはなかった。
だから赤ちんがあいつに惚れてると気付いた時に悔しさもなく生じたのは諦めだ。
「ねぇむー君」
某アニメの主人公のように俺のあだ名を呼んで、そいつは床に座る俺の斜め前にしゃがみ込み俺の顔を覗き込んだ。
「んー何?」
そんな無防備にしてるとちゅーするぞなんて近い距離でその顔を眺めた。
放課後の部活も終わり、すっかり日の暮れた体育館の水飲み場にはもう俺たちしか残っていない。
家が近いから何となく毎日一緒に登下校しているが、出会った時から今までもずっと俺とそいつの関係はただの部活仲間だった。
「ちゅーしようか」
聞き間違いだと真っ先にそう思ったのも無理はない。
ついさっき同じようなことを考えたせいでそう聞こえたのだと。
「は?」
だから阿呆みたいに驚いてそう聞き返した俺に、しかしそいつは不満そうに告げた。
「聞こえたくせに」
非常灯しか点いていない薄暗い中でも拗ねたように口を尖らせたのが分かる。
からかうなよ、と冗談として笑い飛ばす余裕もなく俺は目を丸くしたまま掛ける言葉を探していた。
「・・むー君」
暗闇の中でそいつがひとつ瞬きをする。
「あんま放置されると、僕泣いちゃうよ?」
茶化したような台詞でもなく浮かべられた笑みでもなく、俺が真実と選んだのはその震える声だった。
その後頭部に手を添えてぐいと引き寄せる。
唇が触れる直前に見開かれたその眸は、確かに俺を映していた。




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