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□名前変換





雰囲気に流された衝動だったのかもしれないと思ったのは、告白した直後に相手から告げられた言葉の所為だった。
「・・何でそんな顔して言うの」
スイミングスクールの帰り道、狭い路地に二人きり。
互いの髪から塩素の匂いがした。
何がと聞き返すことも出来なかったのは眉を寄せた彼の眸が泣きそうに揺れていたからだ。
ごめんと咄嗟に口から出たそれは、きっと一番言ってはいけないものだった。


高校で再会した名前ちゃんは僕が想像していたよりもずっとずっと綺麗になっていて、声を掛けるのを一瞬躊躇ったほどだった。
それでも僕が名乗ると驚いたように目を丸くして名前ちゃんは笑った。
放課後の教室で当番の名前ちゃんが日誌を書き終わるのを待っていた時だ。
伏せた睫毛の影が顔に掛かるのが綺麗で、そういえばと忘れかけていた恋心をふと思い起こした。
それを口にしたのは夕日の差し込む教室の淡い光景に浮かれていたのか、それともただの未練だったのか。
「ねぇ名前ちゃん」
僕にはわからなかった。
「昔、名前ちゃんのこと好きだって言ったの憶えてる?」
顔を上げた名前ちゃんは僕の目を見ながら何の表情もなく答える。
「憶えてるよ」
僕は笑い話のつもりでこの話を出したのだろうか、僕の目を見つめて逸らさない名前ちゃんに軽口と笑みはどこかに行ってしまった。
「ねぇじゃあさ」
オレンジ色に染まる名前ちゃんの眸は光に反射して輝いている。
ずっとずっと、僕はこの眸が眩しかった。
「今でも名前ちゃんが好きって言ったら?」
僕の言葉にやっぱり名前ちゃんは眉を寄せた。
「・・渚」
その唇が動くだけで鼓動が胸を打つ。
緊張しているのかもしれないなんて、ぼんやり思った。
「歯に海苔ついてるよ」
「えぇっ!」
反射的に大きな声を出したのも無理はない。
出された答えは僕が予想していたものと大きく違ったのだ。
僕の反応に名前ちゃんはちょっと笑って、日誌を閉じながら席から立った。
「冗談だよ」
職員室に寄らなきゃと鞄を手にした名前ちゃんはいつも通りだった。
「ひどーい!からかったの?」
頬を膨らませる僕に名前ちゃんはあははと笑って、教室の出口に向かう。
「ほら部活行くんでしょ?」
その鮮やかな笑みに先ほどの雰囲気をすべて吹き飛ばされたような気がして、僕はもう何も言うことが出来なかった。
「おいてかないでよー」
笑いながら想いを告げたのは拒否された時のための誤魔化しだったのだと。
そんな臆病になるほど僕は本気だったのだと。
言いたかった言葉は今でも、あの日のあの帰り道に置き去りのままだった。




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