刀剣乱舞


(←宗三左文字の続きです。)


本丸の玄関を見て懐かしいと思うのも何度目か、ここの所遠征が多く、そのうち懐かしいとも思わなくなるのかもしれない。
そんなことを思いながら、持ち帰った資材を隊員に託して屋敷に上がると、部屋に向かう廊下の反対側から小走りで駆けてくる姿があった。
つい口元が綻んで、足を止めて彼女を迎え入れる。
「おかえり!」
満面の笑みで告げる彼女が余りにも可愛くて、もう本丸を離れたくなくなるが実際遠征を希望しているのは僕の方だった。
「ただいま」
そっとその髪をとって口付けると彼女の甘い匂いとは全く別のにおいが鼻を衝いた。
さて一体誰のにおいだろうか。
なんて考えてはみたものの、こんなににおいの残るほど主に近付ける男は一人しか浮かばない。
「男のにおいがするね」
微笑んで告げると彼女は少し目を丸くして、困ったような顔をした。
「あー・・」
あぁ、何だ。
予想が大きく間違っていたことに気付いて拍子抜けする。
もう一人、何の考えもなしに彼女に近付くことの出来る馬鹿がいた。
「妬けるね」
するりと髪を離してそう言うと、彼女は唇を尖らせた。
「本当にそう思ってる?」
からかっているわけではないのにどうやら彼女にはそう聞こえてしまったようだ。
実際あの男に妬けるかと言えばそんなことは無い。
目障りだと思っているのは、そっちではないのだ。
「もちろんだよ」
言ってももう信じてはくれないようで、睨む真似をして僕を見上げる彼女から逃げるようにその横を通り過ぎようとする。
すると、くいと服の裾を引っ張られて、やれやれとそう思いながら目線だけを彼女に向ける。
「どうしたんだい?」
見ると彼女は先ほどとは打って変わって途端に寂しそうに視線を伏せており、指先で掴んでいた僕の服を離した。
「・・なんでもない」
本当に彼女は何を考えてこんなことをするのだろう。
僕に妬いて欲しいなんて、これっぽっちも思っていないだろうに。
ぐいとその腕を引っ張って首の後ろに手を回す。
触れるだけの口付けをすると盗み見た彼女は目を丸くして心底驚いた顔をしていた。
唇を離した後も目をぱちぱちさせたまま僕を見上げている。
何が起こったかわからない、といったような表情だ。
「本当だと言っただろう?」
そんな彼女の様子に何だか胸が空いた。
彼女がこんなにもわかりやすく甘えてくるのは、僕が離れていくような気がしているからに違いない。
愛情を示せばすぐに彼女は僕から興味を失くすだろう。
だからこそ僕は本丸を離れ、素っ気無いかのような振りをするのだ。
「じゃあまた夕飯でね」
読めない彼女の頭の中も今だけは僕のことで一杯であるのだろうか。
そうであるならいい。
惜しみなく彼女に背を向けて自室へと向かう。
次の遠征はいつだろうかと、思う心に落ちる虚しさにはとうに慣れていた。



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