刀剣乱舞


(←同田貫正国の続きです。)


廊下に転がるひとつのトマトを不審に思って手に取ると、暗がりの空き部屋に見えた光景は何とも予想通りのものだった。
顔は見えないがこの本丸に女は一人しかいない、押し倒されているのは間違いなく主だった。
さてなんて声をかけようと僕に気付く気配の全く無い二人を眺める。
そういえば遠征部隊の帰還で表が騒がしかったと思い出して、僕は何でもないことのように口にした。
「遠征部隊が帰って来たみたいですよ」
僕の声に肩を竦ませたのは同田貫だけだった。
まさか僕に気付いていた訳じゃないだろうに、とまたしても主に猜疑心を抱く。
野菜を拾い集めて戻ってきた主の手にした篭の上に、先ほど拾ったトマトを置く。
「行きましょうか」
哀れに思う同情だろうかそれともその哀れな姿に自分を重ねたくなかったのか、部屋に残された同田貫を見ようとは思わなかった。
「姿が見えないので何処に行ったのかと思いました」
二人きりになった長い廊下を玄関に向かって歩きながら、隣を歩く主に棘を刺す。
居心地の悪そうな顔をした主は一度口を開いたが、何の言い訳も思い付かなかったのかすぐに閉ざした。
さてあのまま僕が現れなければ、主は彼に抱かれていたのだろうか。
考えていることも思っていることも一見すぐにわかりそうな主のその頭の中を、きっと誰もが少しも予想できない。
「帯が曲がっていますよ」
見ると慌てて結んだからだろう、背中の結びが曲がっている。
「ちょっと後ろを向いて下さい」
そうして僕が帯を少し解いても主は大人しく篭を持ったまま突っ立っている。
同田貫に襲われるのも無理がないほど無防備で、僕は苦笑しながら帯を結び直した。
「ありがとう」
言って笑う主のその言葉も笑みも、偽りのように感じ始めたのはいつからだろう。
「貴女は・・」
口にして言葉を止めた。
意味がないと思ったからだ。
不思議そうに首を傾げる主に小さく笑って、その手から篭をそっと取り上げた。
「これは僕が厨房まで運んでおきます。貴女は遠征部隊を迎えに行ってあげて下さい」
僕の言い掛けたことを主が気にする様子はなく、わかったと答えた。
そんな主に微笑む自分をまるで聞き分けの良い子供のようだと思う。
徐々に疑い始めている或いは気付き始めている主の嘘と真実に一体僕はいつまで目を瞑っていればいいのだろうか。
「・・・知っているんですよ、もう」
遠ざかる主の後姿を見つめながら誰も居なくなった廊下で呟く。
主が本当に求めているのは何であるのかも、そしてそれが自分などではないということも。



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