刀剣乱舞


考える頭と動く体を与えられた私達がそれを与えたものに惹かれるのは、至極当たり前であるように思えた。
きっと誰もが主に何処か惹かれ、必要とされることを求めているのだ。
「太郎太刀」
名を呼ばれ顔を上げる。
私の名を呼ぶ者は今までにも沢山いたが、こんな風に柔らかい声をして私を呼んだ者は一人もいない。
「どうしましたか」
見ると主は野菜が山盛りになった篭を手にしていた。
「今日はこんなに収穫できたの。夕ご飯何が食べたい?」
子供みたいな笑顔で私を見上げるそのまっさらな姿は、私達が刀であることを理解しているのだろうか。
「宜しければまだ食べたことの無いものを作って下さると嬉しいです」
告げると主は考えるように視線を上に向けて悩み始める。
本当は何でも良かった。
主が作ってくれるものであれば刀剣たちは何だって喜んで食べるだろう。
それでもこんなことを言うのは、きっと分け隔て無く私たちに接する主へのささやかな抗議なのかもしれない。
「あ、思いついた!楽しみにしててね」
そうして無邪気な笑みを向ける主が私が何を食べたことがあるのか憶えていてくれたことに、抱くのは喜びではなく安堵であるのだ。
きっと主は自分がしたことの重大さに気付いてはいないのだろう。
多くの刀に命を与え、道具としてではなく人として私達に接することが、私たちの無知の心にどんな影響を与えるのかなど、気付く由はないのだ。
「はい、楽しみにしております」
私の目に映る眩しいばかりのこの人は、私達が刃を向ける相手よりももしかしたらずっと罪深い存在であるのかもしれないと、そう思わずにはいられなかった。



* * *

(→続きます。話がある程度溜まったらカテゴリを作る予定です。)



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