「左之さん」
屯所の廊下で不意に声を掛けられた。
振り返ると総司が酷い顔色をして立っている。
「どうしたお前・・寝てないのか?」
口に出してから<名前>の一件のことを思い出した。
あれ以来総司は、食事に顔を出しても少し食べたら部屋に戻っちまうし、稽古も自棄になってるんじゃないかと思うほど荒々しい。
一度も<名前>の見舞いに行ってないらしいと熱心に<名前>の世話をしている新八に聞いた時は耳を疑った。
「ちゃんと寝てますよ。そんなことより左之さん、お願いがあるんですけど巡察の当番代わってもらえませんか?」
俺の質問を流した総司は一息にそう告げる。
俺が驚くのはわかっていたのだろう、目を見張っても総司は表情を変えなかった。
「お前それ<名前>は――」
「<名前>君とは仲違いしたんです。僕のせいで大怪我したから。だからもう僕の顔は見たくないみたいなんで、お願いします」
余計なことは聞かないで欲しいと、総司は睨むような目で俺を見た。
どうせ嘘だろうとわかってはいる。
一方的に総司が<名前>から離れようとしているのだろう。
本当に<名前>の怪我が総司のせいなのだとしても<名前>がそれを恨むような奴だとは思わないし、総司もそれをわかっているはずだ。
「左之さん」
口を開かない俺に念を押すように総司は俺の名を呼んだ。
「・・・わかったよ。土方さんにはお前から伝えとけよ」
ため息混じりに告げると総司は一言礼を言って踵を返す。
その後姿が角を曲がるのを見送ってから俺の足は<名前>の部屋に向いた。
仲違い? よく言うぜまったく。
<名前>がいなけりゃ、お前は笑えもしないだろーがよ。



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