新選組の数限られた組の組長を務めている<名字><名前>は年の割りに落ち着いていて、そいつが他の奴と言い争いや殴り合いをしている所は見たことがない。
端麗な顔立ちで背も高く、気配りもできて良い意味にも悪い意味にも口が達者だ。
総司の口が過ぎた時の宥め役とも言えるそいつの欠点と言えば、その出来すぎた容姿と性格が引き起こす色恋沙汰である。
新選組の中でも一、二を争う腕前の<名字>がそのくせ頬や腕に傷や痣を作ってくるのは全て女の所為であった。
「あれ、<名前>君また怪我?」
朝飯の最中、隣に座る<名字>の手の甲に何かを見つけた総司がふと口を開く。
「あー・・まぁ」
おかずに手を伸ばす<名字>は特に気にする様子もなく、当たり前のことであるかのように相槌を打つ。
見るとその腕には引っ掻かれたような傷が一筋出来ていた。
「女にでも振られたか?」
耳聡くも総司と<名字>の会話を聞いていた永倉が口を挟む。
「というより振った女にやられたんだろ」
続ける原田に<名字>は苦笑してみせるだけで否定も肯定もしない。
「まったくそんなんだから本命はからっきしなんだよ」
「総司・・!」
嫌味に呟く総司の言葉に珍しく<名字>が慌てる。
それを見逃す筈もない幹部三人が口々に<名字>を問い詰める。
「へぇお前にも本命がいるんだな」
「何それ初耳!だれだれだれっ?」
「からっきしってこたぁ太夫の姐ちゃんにでも惚れてんのか?」
揶揄うように笑みを浮かべた原田に続き、今まで黙っていた平助までも身を乗り出してくる。
真剣な顔でそりゃ厳しいわなと一人で納得している永倉に居た堪れなくなったのか<名字>は箸を置いて立ち上がった。
「ごちそうさま」
逃げるなよと慌てて声を上げる平助には耳を貸さず、<名字>は総司の頭を軽く平手で打つ。
「あいたっ」
そのまま食堂を去ろうとする<名字>を何気なく眺めていると不意に目が合ってしまった。
「っ・・」
自分もこの三人のように興味津々であるとは思われたくなくてさっと視線を飯に戻す。
まったく反省した様子のない総司はくつくつと何故か未だ可笑しそうに笑っていた。


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