屯所に戻ると<名前>君は即座に部屋に運ばれ、 屯所内は深夜であるにもかかわらず騒がしくなった。 土方さんの元へ報告に行った僕は事の経緯を話してから浪士を取り逃がしたことを侘びる。 「・・いや、負傷した<名字>を一人にしなかったお前の判断は正しい」 土方さんはそう言ったが、結局のところあの浪士が長州藩の者だったのかも不明のままだ。 「土方さん、<名前>君が負傷したのは僕の所為です。 僕を庇ってあんな怪我・・。 だから処罰するなら、僕だけにして下さい」 正座をした膝の上に置いた拳を強く握り締める。 普段ならこんな失敗はしないのに、と。 何であんな隙を見せてしまったのか頭の中はぐるぐるとそればかりを考えている。 「沙汰は追って出す。 今は・・<名字>の看病でもしてやってくれ」 パタンと土方さんの部屋の襖を閉めて僕はため息を吐いた。 俯く視線の先に映る足が<名前>君の部屋に向かうことはない。 会いに行ったとして僕は何を話せばいい? 謝って怪我の具合を聞いて、それから続く話題は決まってる。 息を詰めて驚いた<名前>君の顔が繰り返し頭に浮かぶ。 時間が戻ればいいのに。 今日の朝に戻って全部やり直せればいいのに。 どうしようもないことを嘆いて、唇を噛み締めた。 一晩中怪我の熱に魘された<名前>君も夜が明ける頃には熱も下がり、医者の話では治るのに時間は掛かるが治らない怪我ではないということだった。 後遺症はほとんどないだろうと話す医者に胸を撫で下ろし、・・・そして僕が<名前>君の見舞いに行くことは一度もなかった。 |