「いたたたた!何するんスか部長!」
涙目になる赤也を何となくグリグリとイジメていたら、ヤレヤレといった風に蓮二が溜め息をついた。
「八つ当たりは止めてやれ」
「………」
鋭い彼は俺の心情を察しているのだろう。それがまた面白くない。
「八つ当たり…って、また名前先輩となんか…いっだ!ギブギブギブ!」
禁断の言葉を口にした後輩の頭を全力の握力で押さえてから離せば、そそくさと逃げられた。
「マジ頭割れるかと…」
「気をつけろ赤也、精市は名前不足の禁断症状で理不尽な八つ当たりが普段の6割増だ」
「………」
俺の表情はさぞかし歪んだことだろう。楽しげな表情の蓮二が憎いが、それはこの状況を面白がっているから…ではなくて。
「俺が名前と同じクラスで、彼氏である精市よりも関わる時間が長いことを面白くないと思っている確率100%」
「分かってるならクラスを交換してくれたって良いんだよ?」
「それは無理な話だ」
恋人同士とはいえ、常勝を掲げる立海テニス部の部長である俺に休みなんてない。更に名前は生徒会で(それがまた蓮二も居るという点が気に入らない)最近は総会の関係で忙しいらしく、休み時間に会うこともままならない。
蓮二の言う通り深刻な名前不足なのだ。
自覚したら無性に腹立たしさが増して、俺は仁王に八つ当たりに向かう。
「………しかし、恋人同士とは似るものなのか?」
精市が去った後、赤也は自らの頭をさすりながら聞き返す。
「え?」
「クラスで俺は、散々名前に八つ当たりされている」
ハァとついた溜め息は、やけに切実だった。
着替えを終えて、部室を出る。今日の戸締まりは真田に頼んだから後は帰るだけだ。
ふと視界に入ったのは、彼氏を待っていたらしい彼女がやっと来た待ち人に嬉しそうに駆け寄る姿。
「………」
その姿に嫉妬より先に寂しさらしきを覚える。ああいった恋人らしい行為を最後にしたのが遥か昔に思えた。デートも数えられる程度しかしていないし、何より互いに忙しい。そして…不安になる。寂しさを感じているのが自分だけだったらと。この状況を名前はどう感じているのかと。
(………女々しいな)
自嘲する。少しまともに会話をしてない程度のことに、こんなにもダメージを受けている自分に。
けど、たった1日離れているだけでも寂しいのだ。数日会えないなんて、耐えられたものではない。
そんな時。
がばっ、と。背中からの軽い衝撃と、荒い息。そして途切れ途切れのよく知った声。
「間に…合っ…た…」
「名前…?」
予想外の展開に振り向けば、息を整えてから彼女は言った。
「待ってるつもりだったんだけど、精市の方が終わるの早かったね」
一緒に帰るということは、滅多にない。俺は部活が終わるのが遅いし、生徒会の仕事が多い彼女を待たせるなどと時間を無駄にさせたくないからだ。
「総会関係の仕事、気合いで終わらせて…で、テニス部終わったって真田が言ってたから急いで来た」
ようやく呼吸の落ち着いた名前を、思い切り抱きしめる。
「?!!」
びっくりしたらしいが、関係ない。久しぶりに味わう体温を感じながら、息をつく。
「え…と、精市…?」
顔を赤くしながら戸惑う様子は俺だけのもの。
「ずっとこうしたかった」
腕の中で大人しくなる最愛を、強く実感する。
「私も…、最近…こういうのなかったから…」
視線を逸らしながら呟かれた言葉とより縮まった距離に、愛しさが増して。
「ホント…蓮二クラス代わってくれないかな」
「?」
ほんの僅かでも、離れたくないから。
……………
Res:ゆぽぽ様
この度は素敵なリクエストをありがとうございます!寂しがる感じが薄い…というか寂しがり拗ねた感じになってしまいました…が、これが限界でしたorz
拙いサイトではありますが、また拙宅にお越し頂けたら幸いです。