その日、部室にやって来た跡部景吾は戸惑いを隠せずにいた。今まで様々な経験をしてきた方の人種だと自認していたつもりだったが、予想外の出来事というのは存在する。勿論、彼とて氷帝の王様であれ神様ではないのだから当たり前だ。…いや、たとえ神が存在していたとしてもきっとこの件に関しては予想など出来なかっただろう。


「あっとべーっ!」


いきなり、名前に正面から飛びつかれた。子供扱いや甘やかされるのを毛嫌いするはずの俺の究極の癒やしにして所有物(本人未承諾)で、甘い物以外では滅多にツレナい…けどそんなとこも可愛いな俺を虜にするだけはあるな全く、とんだ小悪魔だぜ…な名前が。


俺の腕の中に大人しく収まっている。…しかも自発的に。犬から小鳥が生まれるぐらい低い確率の出来事である。


「名前…?」


「んー?」


可愛らしい上目遣いはちょっと手に負えない殺傷力を誇る。


「…お前…何があった…?」


こんなに動揺したことが過去に1度でもあっただろうか。

確かに普段から彼女は自分の物だと公言しているし、そうだと思ってもいる。しかしそれは人形のように全てを自分の思い通りにしたいというワケではなく、反抗期でツレナいところなんかもひっくるめて名前は名前なのであって…


「跡部、全部口に出とるで」


そんな時、背後からやけに低音な関西弁が聞こえた気がするが俺はスルースキルを発動させ…


「だから全部口に出とるねん!スルースキル発動すんなや!」


「チッ、なんだ忍足。俺は今世紀最大のデレを発動させた名前を愛でるのにだな…」


「ちょっと落ち着き。早口過ぎるわ」


俺はゴロゴロと子猫のように腕の中で甘える名前を抱き直した。


「って…え?!名前なんで小鳥から鯨が生まれる確率ぐらい発生率の低いデレ発動しとるん?!」


「忍足ウザイ」


「可愛く言われても俺は凹むで!」


いつもよりは可愛らしい口調だったが、忍足の扱いなどその程度らしい。


「しかし、本当にどうしたんだ?」


「どうもしてないよ?」


だからその上目遣いの攻撃力に今にも理性が焼き切れそうである。


「お、居た居た」


「亮!」


そんな時現れた宍戸に、ぴょんと名前は飛び移る。余談ではあるが彼女の跳躍力は岳人が目を見張るほどだ。


「チョコは?」


「だからアレはもうねぇっつの。跡部に強請りに来たんじゃないのか?………あ、それと跡部。コイツに酒入りのチョコはやるなよ」


ぎゅーっと先ほどの自分にそうしたように宍戸にも甘える彼女を見て、更に脳内に疑問符が浮かぶ。


「何があったん…?」


俺と同じく状況を把握していない忍足が疑問を口にした。


「………兄貴が美味いチョコ貰ったっつーから名前にやろうと思ったらよ」


曰わく。宍戸の兄が貰って来たのは国外メーカーで日本でも名の知れたチョコだったらしく、なら甘い物好きである名前が喜ぶはずとあげたらしい。…が、それは外国産のチョコレート。向こうでは結構フツウにチョコレートには酒の類が入っている。つまり…、


「チョコに入ってた酒で酔った…と?」


「ジローは全然平気だったのにな」


どこか遠い目をしながら宍戸は名前の頭を撫でる。


「で、これ以上酔われても困るからってチョコを取り上げたら…じゃあ跡部に貰ってくるって言ってな」


そして冒頭に戻るわけだ。


「チョコ食べたい」


宍戸の腕から降りた名前は、こてっと小首を傾げながらそう言った。しつこいようだが、その上目遣いの破壊力は某ビッグバンや某波動球を凌駕する。


俺は、ケータイを取り出した。


「今すぐに最高級のチョコレートを用意しろ。アルコール抜きのヤツをな」


「意外やな。デレ全開の名前見たさで酒入りの頼むと思ったんに」


名前に触れようとして指を本来曲げてはいけない方向に曲げられて涙目になった忍足はそう言ったが、これには理由がある。


「跡部大好き!」


俺が理性に別れを告げる日は、そう遠くないかもしれない。










……………


Res:和泉様

この度はリクエスト有難うございます!甘えたな逆走夢主に戸惑う跡部…ということだったのですが、遊び過ぎたことをここに謝罪させて頂きます←
せっかくの素敵なリクエストだったのに申し訳ないです。

こんな基本的に遊び心で構成されたような拙宅ですが、これからも温かく見守って頂けたら幸いです。では!











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