「名前どーせ明日暇やろ。俺と映画っつー有意義な時間やるんで付き合え」


明日は珍しく部活が休みだ。さて部屋の片付けでもするか小春先輩とお出かけでも…一氏先輩が五月蝿いから止めようとか考えていたのに。


「まさかの命令形なんだけど母さん、どこで育て方間違ったの?」


「しゃあないやろ、反抗期も成長過程で大事な時期なんやから。ちゃんと正面から向き合わなアカン」


すぐ傍にいた白石先輩に尋ねれば、感慨深げに頷いた。


「部長に育てられた覚えないわ。万が一育てられたとしたら、それこそ万年反抗期や」


「いや、財前は万年反抗期でしょ。それより私明日フツーに用事あるんだけど」


「俺より優先することなんかないやろ。万が一あったとしても認めん」


横暴と言う言葉を生んだ人の気持ちがよく分かった気がする。貴方の生み出した言葉は今も有意義に使われていますよ、と顔どころか存在も確定しない誰かに伝えたい。


「別に私じゃなくても良いでしょ?白石先輩とか謙也先輩とか…」


「野郎と映画行って何が楽しいねん。えーから明日10時な」


何故か不機嫌にそう言い残すと部室に戻った財前に溜め息をつけば、白石先輩は楽しそうだった。


「難儀な奴やなぁ…。つい保護者気分になるわ」


「母さんウザイ」


うんうんと頷く彼に無性に腹が立って、その右足を踏み付けた。















「へぇ、まぁまぁやな」


10時ほぼジャストに待ち合わせ場所に向かえば、ケータイをいじっていた財前が私の格好を見て開口一番そう言った。


「ジャージで来れば良かったと思い始めた私がいるけどね」


「止めぇや。一緒に歩きたかないわ」


「ま、私服を財前に褒められてもね。…で、行くんでしょ、映画。何観るの?」


昨日のあの後、兄貴からチケットを貰ったとか言ってたからタダで観れるなら…と今日は来たのだが、何を観るのかは訊いていなかった。


「これ、好きなんやろ?」


渡されたチケットには私の好きなハリウッド映画の最新作のタイトルが書いてあって。


「あ、だから私を誘ったのか!財前ありがと!」


最近観たいと言っていたから、覚えていてくれたのだろう。


「そもそもお前以外を誘ったりせえへんって阿呆」


ポツリと呟かれた言葉は私の耳に届くことなく、2人で映画館へと入った。










「面白かった!」


「まぁ、せやから続いとるんやろ」


「………財前の感想が冷たい」


映画館を出れば時刻はお昼少し前。


「昼、どないするん?」


「某ドーナツ店が100円セールだから行こう。つけ麺食べる」


「100円セール無視ってどんな喧嘩の売り方や…。別に構わんけど」


「あ、奢ってあげようか?映画代として」


「なんでや。あのチケットは貰いもん言うたやろ」


某ドーナツ店へと歩きながら、でも、と話す。


「なんかお礼したいじゃん。楽しめたし」


「別に、名前楽します為に行ったわけやないで。2枚あったし使わんのは勿体無い思っただけや」


歩く速度が違うから、私は少しだけ早足になる。というか、身長はそこまで変わらないのに歩幅はそんな変わるのかと余計なことを考える。


「いやいや、でもさ?」


「どーでもええ」


「財前が冷たい」


つーんとした態度を崩さない財前に拗ねたような口調を返せば、ちらと彼が振り返る。


「?」


ぱしっと右手を取られ、そのまま歩き出された。


「なら、礼はこれでええわ」


「…手、繋ぐのが?っていうか歩くの速い!」


手を引かれたまま、先ほどより上がる歩行速度に早足でついて行く。


こちらを振り向かない財前の、けれど耳が赤いことに気付いたのは少し後の話で。


(こっちは手ぇ繋ぐだけでこれやのに。…誰が冷たいんや)


そんな彼の心中を知ったのは、更にまた後の話。










……………


Res:あかね様

10万打企画にご参加頂きありがとうございます!…ツンツンデレな財前…になっているでしょうか。ちょっとツンツン度が少ないかな…というか同じクラス設定をすっ飛ばしてしまって申し訳ないです!

遅くなってしまいましたが入試お疲れ様です!ゆっくり息抜きなさって下さいね。では!









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