一番の理由は、単に怖いだけだ。


今の関係は居心地が良いから、進みたい気持ちはあるけれど…この関係が崩れるのが怖くて。


ただ…、


「ごめん、待たせたね」


申し訳なさそうに精市は言うが、別に彼は何も悪くない。


「ううん、大丈夫」


本人は否定するだろうが、遅れた理由は分かっている。今まで何回もあったから、察しがつく。


告白、だ。


多分、雰囲気的にまた断ったのだろうけど。

立海のテニス部の主将という点で、否が応でも注目を浴びるのだ。それが中性的美人で性格も基本的には問題が無いから、女子生徒からの人気が高いのは仕方ない。


私は、ただの幼なじみで。家が近いから時間さえ合えば一緒に帰るけど。



すぐ隣を歩く彼と、手を結ぶことはない。















なるほど、これが噂の果たし状というやつだろうか。靴箱に入っていた『放課後、屋上で待っています』

精市との仲の良さに嫉妬した女子から嫌がらせを受けたことは1回、振られて泣きながら何故か私に文句を言われたこと2回、「ただの幼なじみってだけでしょ!」「ただの幼なじみですよ?」ってやり取りが1回…の過去は持つが、こんなあからさまな呼び出しは初めてである。


(行かないのも怖いしなぁ…)


陰湿な嫌がらせを勝手に妄想して、気が重くなった。










嫌な時間はあっさり迫ってきて放課後。精市には先に帰るようメールを送って、渋々と屋上に向かう。


(何言われんだろ、昨日の振られた子かな?)


というか、何故私に当たるのか。何度も言うがただの幼なじみだ。私の感情はともかく、実状は。


ガチャ…と屋上の扉を開くと、予想外の展開。そこに居たのは男子生徒で…元クラスメートだ。名前は…入野とか上野とかだった気がする。


「あれ、どうしたの?」


女子が数人で待ち構えているイメージだったから、拍子抜け。…と思ったらいきなり腕を掴まれた。


「あ、あの…名字さん!好きです付き合って下さい!」


「………え?」


誰か私の混乱した思考を整理して欲しい。

私の予想では昨日精市に振られたであろう女子が私に対する理不尽な文句を言って去っていくはずだったのに。なんで私は名前も忘れてしまった元クラスメートに告白をされているのか。


「駄目、ですか…?」


伺うような表情ではあるが腕を掴んだ手の力は先ほどより強くなって。後退りしようにも離れない。


(ピンチ…?)


自分の身が危機的状況らしいと感じ取るが、あいにくこの力を振り払えるだけの強さは持ち合わせていない。



「人の彼女に何やってるの?」



ぐいっと後ろから引き寄せられたと思ったら、乱入者に驚いた手が腕から離れた。


「精市…、」


「え、幸村君?!…彼女って、」


「名前以外誰が居るの?…帰るよ」


呆気に取られる私の手を引いて、強引に屋上から連れ出された。















「ごめん」


「何で?」


「彼女って言ったから、多分本気にしただろうし…、」


帰り道。何故か手は繋がれたまま、いつもより少し早足な精市と歩く。


「大丈夫だよ。助けてくれるためだったし、それに…」


言いかけた時、不意に彼は振り向いた。


「訂正する気、無いから」


やけに真面目な目がそう言ったかと思えば、手を離され先ほどより更に早足で彼は行ってしまう。


(えーっと、訂正する気ないってのは…彼女発言…だよね。つまり…?)


やばい、頬熱くなってきた。


「置いてくよ、名前」


「あ、待って…」


電信柱の傍で待つ彼は、左手を差し出していて。


「………」


小走りに追いかけて、その手を取る。



「勝手に離すの、許さないから」



それは綺麗な笑顔で、精市は言い切った。










……………


Res:不知火様

初めてまして!この度は10万打企画にご参加有難うございます。
せっかく素敵なシチュエーションを頂いたにも関わらず、両思いだけど片思い感が薄くて申し訳ないです…。

まだまだ拙い夢書きではありますが、これからも当サイトを宜しくお願いします!









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