目に入れても痛くない、という表現がある。ひどく可愛がることのたとえであって実際には目薬とコンタクトレンズ以外は目に入れたら痛いだろうし、そもそも目に何かを入れるという発想からして間違っている。…それはさて置き。


「目に入れても痛くない…つーか常に視界に入ってないと呼吸してる気がしない。更に言うなら触れてないと生きてる気もしない」


そう断言した俺に、仁王と赤也はまたか…と言った顔になる。

今まで他人の惚気を聞いている時はそんなこと人に話してどーすんだよと思っていたのだが、いざ自分の身になると彼女の…名前ことばかりを話してしまう。

惚気を自慢したいのではない。ついつい口にするのは名前のことばかりになってしまうのだ。


「それは…オーバーだと思うぜよ」


「つまり今の丸井先輩は死んでるに等しい状態ッスか?」


今日のテニス部は珍しく早めに部活が終わった。いつもなら彼女の方が先に終わって待っていてくれるのだが、今日は逆で。

いつも待たせて悪いとは思っているし、個人的には待つという行為は苦痛だと感じる方だが、それが名前だと思うと全く平気なのだから不思議だ。


「まぁ確かに名前先輩はめっちゃ可愛いとは思いますけど…」


「ちょっかい出すなら遺書残しとけよ?」


「………いくら何でも、そんな命懸けな馬鹿しませんって」


「俺なんか名字と会話するたび寿命が縮む思いナリ」


「当たり前だろぃ。本当なら俺以外の男の視界に入れたくねーもん。つか入れんな」


「ブンちゃん、知っとると思うけど俺の前の席が名字なんじゃけど?」


「いや駄目。見んな」


「仁王先輩、俺ので良かったらアイマスク…貸しましょうか?」


「俺は良い後輩を持ったぜよ…」


ぐすっ、と泣き真似をする詐欺師はシカト。理由は単純で、早足な足音に振り返ると走って来てくれたらしい名前が居た。


「ごめんね、待った?」


嗚呼、やっとまともに呼吸が出来る。


「いや、今日は俺らが終わんのが早かっただけだから」


「やっぱり。こっちはいつも通りに終わったのに、テニスコートに誰も居ないんだもん」


「いつも待たせちまってるしな。じゃ、帰るか」


「うん」


そうやって、当たり前のように手と手が絡み合って。ようやく生きた実感を得る。

そんな俺の心中を知るはずもなく、名前はふと振り返って言った。


「じゃあね。仁王に赤也君」


「…ッス、」


「気をつけて帰るぜよ………俺が」


多分2人は俺の先ほどの言葉を覚えていたのだろう。微妙に目を逸らしていた。


「なんか、2人に目を逸らされた気がしたんだけど…気のせいかな?」


「あー、気のせいだろ」


少し歩いた所で名前が問いかけた疑問にしれっと答える。


「でも、待っててくれてたなんて予想外だったな」


「別に気にしてないって」


そうやって俺を何より優先してくれるところも大好きだが、どうやら今回は違うらしい。


「じゃなくて、ブン太のこと待ってるの嫌いじゃないんだ。私の為に急いで来てくれるのとか…」


嬉しそうにそう言った名前を耐えきれずにぎゅっと抱き締める。


「………ブン太?」


いきなりのことで吃驚する様子も、赤くなった頬も全部…


「すっげー可愛い」


本当に、自分の目に閉じ込めてしまいたい程に。










……………


Res:るな様

初めまして!この度は素敵なリクエストを有難うございます。溺愛…というか独占欲強め…といった感じですが、書いていてちょっと趣味に走り過ぎたかなと反省しつつも…楽しかったです(笑)返品はいつでも受け付けますので!

これからも楽しんで頂けるよう頑張りますのでいつでもまたお越し下さいませ。









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