は分からなかったり



「蔵…?」


名前を部屋に運んで寝かせたあと、どうしても離れがたくて邪魔にならないようベッドに座っていたら。


「ここ、私の部屋…?」


まだ寝ぼけ眼な名前がついと俺の手を引いた。


「あぁ。疲れとったんやろな」


「蔵のせい…」


「いやいや最初から全員参加やったやん」


伸ばされた手を握り返しせば、彼女は嬉しそうに言う。


「守ってくれてありがと」


「約束やからな」


ずっと前の、2人だけの約束。俺と名前しか知らない、大切な絆である。


「…俺はそろそろ部屋に帰るで。あんま長居したら立海のみんなに何されるか分からんしな」


そう言って手を離そうとすれば、強くなる彼女の手の力。


「名前…?」


布団の端で顔を隠しながら、控えめな声が言う。


「寝るまで、で良いから…」


あまり人に甘えない…甘えられない名前にしてみれば言ってて恥ずかしいのだろう。


「やっぱり良い。おやすみ」


「前言撤回は受け取り拒否や」


離そうとした名前の手を、今度は此方が離さない。


「おやすみ」


「ん、」



直ぐに寝息を立て始めたのがなんとなく気に入らなくて、額にキスを落としてから部屋を出た。



















幸村達に捕まって枕投げやらトランプやらに強制参加させられ、ようやくお開きになったので俺は自室に戻ろうとしていた…時。


「白石?」


「…柳クン」


確か名前の部屋であった扉から、白石が現れて気まずそうな表情をされた。
まぁ、女の部屋から男1人が出て行くのを見られたら当然の反応かもしれないが。


「や、一応言うとくけどな?何もあらへんで?」


珍しく焦っているのが可笑しくて、つい微笑を漏らす。


「別に何も疑ってないさ。久しぶりの再会なら、水入らずで話したいこともあるだろうしな」


そう返せば少しだけホッとした様子を見せる。


「見つかったんが柳クンで良かったわ〜」


確かに幸村や仁王あたりだったら面倒なことになる確率100%…いや、時間帯的に真田もか。


「実は何かあったと言うなら俺も容赦はしないつもりだが…、」



びくりと警戒する彼に冗談だと返せば、人が悪いと言われる。


「名前が大事にされてるみたいで安心したわ」


「保護者みたいなことを言うな」


俺も人のことは言えないかもしれないが、そう思った。


「…俺は前みたいには傍に居られへんからな」


少しだけ寂しそうに、彼は呟く。ま、立海で幸せなら構わへんけどな!と直ぐに取り繕ったが。


「傍には居られずとも、支えることは出来るだろう」


同族意識というかなんというか。そう言わずにはいられなかった。
すると、彼はキョトンとした後に笑う。


「名前が柳クンに懐く理由、分かった気がするわ」


「………俺は懐かれているのか?」


他の部員が名前に懐いているのは分かるが、そのように言われたのは初めてだ。興味深い。


「立海やとそんな感じやな。名前はあんま甘えへんから分かり難いけど、」


すれ違う時、肩を叩かれる。


「頼んだで。甘える時は、扱いが大変やから」





俺がその言葉の真意を理解するのは、少し先の話だった。









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