プレゼントは約束を
「あ」
歯を磨きながら付けっぱなしのTVを見て時間は余裕だなんて思っていたら。
アナウンサーの机の上のカレンダーの日付を見て、思わず手が止まった。
9月25日(日)
「赤也の誕生日じゃん」
何も用意してないと言ったら、拗ねるだろうな。
(えー、今から何か用意…)
今日の練習は午前中で終わりなので弁当も用意していない。
奇跡的に何か無いかと考えて、そんな都合の良いことが起きるワケも無かった。
(や、でも別に部活中じゃなくても良いのか)
帰りに家で何か作ってやろう。ブン太とか誘ったらケーキとか楽に出来るし、なんて考えて私は口をゆすぐ為に洗面所へ向かった。
全校大会も終わって、本来なら3年生は引退の筈だが別に部活に顔を出すのが禁止というワケでもないし、しかもテニス部だ。彼らは文句を言われることもなく堂々と練習に来ていた。
「…というワケだからみんな、帰りに名前の家に集合」
「へ?」
「名前と丸井がご馳走作ってくれるってさ」
「任せろぃ!」
「待て待て待て。なんで私の家で全員集合誕生日パーティーな流れになってんの?」
「別に良いだろ。それとも誰かハブる気?」
「精市をハブりたいけど駄目って言っても意味の無い確率100%だから良いです」
彼に逆らうことの無意味さは分かっているし、可愛い後輩の誕生日ぐらい寛大でいてやろうじゃないか。
「名前先輩、ホントに良いんスか?迷惑なら別に俺…」
嬉々とする先輩達を横目に、赤也は不安げに尋ねてきた。
「まー、別に迷惑じゃないし。可愛い後輩の誕生日なんだから祝うのは当たり前」
きゅと鼻を摘みながら答えて、笑う。
「何食べたいか、考えておきなよ?」
「まーくん焼肉が良いナリ」
「雅治には言ってない」
「あ、俺も焼肉が良いッス!」
「ほれみんしゃい。俺は赤也の代弁をしただけぜよ」
「ブン太ー、雅治のケーキはブン太が食べて良いってー」
「マジかよ仁王!サンキュー!」
「ちょっ、それは駄目じゃ!」
ぎゃんぎゃん騒ぐ様子は正に中学生のそれで、思わず笑みが零れる。
「来年は少し離れるけど…」
「?」
赤也の鼻から手を退ければ、その手首を掴まれた。
「いつまでも、こうしてたいッス」
来年になれば私達は赤也を置いて高校へと上がる。
年は1つしか変わらないし、同じ立海大附属だけれども。きっと、距離は出来てしまう。それはどうしたって変えられない事実だから。
「じゃあ、誕生日プレゼント」
掴まれた手を解いて、小指と小指を絡ませる。
「来年も、その先もずーっと、みんなでこうやって居るって約束。それが今年の赤也への誕生日プレゼント」
「名前先輩…、」
「ちょっと其処!何良い雰囲気になってんだよぃ!」
そんな時、先ほどまでじゃれていたブン太達が此方を見た。
「赤也、誕生日だからって名前はあげないよ?」
「私の人権は私のものです」
「指切りなんて怪しいナリ。なーに約束したんじゃ?」
「秘密ッスよ!秘密!ね、名前先輩」
そう言って赤也と目が合って互いに笑い合う。
結局指切りの内容が分かって、みんなでまた指切りをするのは今から少し先の話。
ハッピーバースデー、切原赤也。