キスなんかじゃ起こせない
ぐーすぴー。
ぐーすぴー。
「………」
「んー、」
すぴーという間抜けな音がよく似合うのは、彼女かジローぐらいだろう。時折呻いたり体勢を変えたりしながらも名前は気持ち良さそうに寝ていた。
その寝顔が可愛らしくて思わず口角があがる…じゃなくて。
「良い度胸だなぁ、名前?」
ぐーすぴ…
「いたたたたたた!」
ギューッと頬を抓れば、涙目になりながら彼女は起きた。
「いったぁ…、景吾の馬鹿!」
頬を押さえながらこちらを睨むが別に怖いはずもなく。
「てめぇこそ何、俺様の特等席で寝てやがんだ。つーか授業サボっただろ」
名前は生徒会室俺様専用のソファで器用に丸まって寝ていた。
そして今もそのままの状態で隙あらば寝ようとしてるのはお見通しなので頬から手は離さない。
「…スゴい事に気がついたんだよ」
「あーん?」
「生徒会室なら教師が見回りに来な、いたたたたた!」
またもや頬を抓る。
彼女は睡眠を愛するが、ジローのようにどこでも寝れるワケではない。が、保健室でサボるのにも限界があるワケで。
「跡部様専用ソファ寝心地良いんだもん」
「当たり前だ。俺様専用だからな」
「ズルい。おやすみ」
「文脈を大事にしろ」
「わわわ!」
そう言いながら無理矢理体を起こせば、体勢を崩して俺の胸に飛び込む形になる。
「んー、あったかい」
「まだ寝る気かお前は」
ごろごろと猫みたいに擦りよってくるのは、嫌いじゃない。
「だいたいさー、起こすのにほっぺ抓るとか嫌がらせだよね。色気ないなー」
「キスじゃ起きねーのは学習済みだからな」
「此処は学校だよ生徒会長」
「はっ、んなこと関係ねぇ」
そう言って口付けて、名前は瞳を閉じる。
「結局寝るのか」
「今のはおやすみのちゅー」
「ったく、」
またもや寝息を立て始めた彼女の額にキスをして、その体を抱き直した。
舞台放棄の眠り姫は、王子の腕の中を愛す。