本気になったり
「これが浪速のスピードスターの実力っちゅう話や!」
「ホント足だけは速いッスね」
2人の足元で屍と化している連中は乾汁の犠牲者達で。
「俺、鬼で良かったわ」
「侑士が鬼やなかったら真っ先に捕まえたんに。なんで鬼やねん」
「ま、籤やからしゃーないッスわ。それより部長達どないしてはるんやろ」
「重り追加になる前にまだまだ捕まえるでぇ〜!」
「この鬼ごっこでそないなテンション高うなるんはお前ぐらいやな」
そんな従兄弟の言葉を聞くより先に、スピードスターは走り出した。
「名前先輩!」
「逃げてるってことは鬼じゃない=味方か」
階段の影で隠れていたら、息の荒い赤也がやって来た。
「ジャッカル先輩が怖いッス」
「………ご愁傷様」
よく逃げられたな、赤也。なんて思っていたら、彼はその場に座り込んだ。
「丸井先輩が居なかったら捕まってたッスよ」
「ブン太ドンマイ。私は青学の黄金ペアと金ちゃんが怖かったよ、手塚とリョーマを身代わりにしたけど」
「副部長も鬼らしいッス」
「なにそれ泣きたい」
誰が鬼で誰が味方かは知らされていないので、情報交換は重要だ。
味方のフリをして近寄って来た侑士は本能的に避けたが。
「もー、疲れた。鬼ごっこっていうか広さ的にかくれんぼだし」
「先輩は重りが無いだけマシッスよ。あー、あと3回」
ちなみに重りは10分ごとに指定された場所に向かってつける。その間は待ち伏せや捕まえるのはナシというルールで。
「私、重りあったら死んじゃう。今も結構ヘトヘトなのに」
「でも楽しそうッスよね。好きなんスか?鬼ごっこ」
「鬼ごっこっていうか、みんなで遊ぶのが好き。まぁ赤也達にしたら一応メニューの一環だけどね」
座り込んだ赤也の顔が上を向き、ちょんとその鼻を摘んだ。
「いつまでも座ってたら危ないかも」
「へ?」
遠くから聞こえてきた足音が誰かは分からないけれど、私は階段を駆け上がった。
「げ…!副部長!」
「風紀委員がいけないんだー」
踊場から彼らを見届けた後、私はその場を後にした。
(あ、悲鳴)
赤也、ご愁傷様。
「跡部も鬼やったんな。にしてもよう捕まえたわ」
「俺様の眼力から逃れられる奴はいねぇ」
眼力てそんな能力だったっけ?という疑問はさて置き。
「残り10分、か」
立海で鬼役だった柳は時計を見る。
「四天宝寺で捕まってないんは白石と千歳やな」
「千歳先輩を捕まえるんはムズくないッスか?」
普段から放浪癖のある彼を捕まえることの難しさは彼らが一番分かっている。
「氷帝は全員おるな」
「手塚と不二が捕まらないにゃー」
「桃は海堂が捕まえてくる確率86%…それ以外は居るな」
「立海は幸村と名前だな」
ちなみに人数の割に声が少ないのは乾汁の犠牲者が大半だからである。
「駄目やー全然見つからへん!ワイは白石と名前捕まえたいー!」
そこに今まで残りの面子を捜索していた金太郎が現れる。
「残り時間も少ないことだしここは連携プレーといくべきだな」
「目指すのは我々の完勝だ」
「あれ?ただの鬼ごっことちゃうん?」
乾と柳の発言に思わずそう言った侑士だが、その考えは改めさせられる。
「例え鬼事とは言え負けは許さん」
「俺様から逃げ切れるわけねーだろ」
「絶対捕まえたるで〜っ!」
全員の漲るやる気に、彼は溜め息をついた。