対面でそれはない


視界に映った瞬間に…、ヤバいと思った。ヤバい可愛い。四天宝寺にこんな可愛い子が居たのだろうかと。廊下ですれ違った際の、長くて綺麗な髪から仄かに香るシャンプーの匂いに思わず抱き締めたくなった。嗚呼もう本当に可愛い。名前を知りたい。クラスは?学年は多分同じだろう。あの澄んだ瞳で俺のことを見て欲しい。あの可憐な唇で俺の名を呼んで欲しい。


(あんなお人形さんみたいな可愛い子、実在してええんか?つーかなんで全体的に小さいねん、可愛過ぎやろ!腰とかめっちゃ細かったで!抱き締めたら折れるんとちゃう?しかもあないな小さな口元に黒子あんねん妙にエロいわ、んんー絶頂!にしてもなんやろ清楚なんにエロいって…。俺思春期やで?)


周りの女子からは爽やか系として人気の高い白石蔵ノ介の思考がこんな思春期丸出しのだと分かったらファンは確実にショックを受けるだろう…が。
止まらないものは仕方ない。彼の思考はあの可憐な少女とすれ違ってからずっとこの調子だ。


「白石ー?どないしたんやボーッとして」


「謙也、俺あかんわ」


「は?」


「なんで今まで知らなかったんやろ。ちょ、今から探してくるわ」

「………白石?」


彼が変なのは割といつもの話だが、今日はいつもよりおかしい。
ガタッと席を立ち去っていった浪速の聖書をポカンとして見送った。















「見つからんかった…っ!」


放課後。
テンションがた下がりの白石は部室でうなだれていた。


「蔵リンたらどうしたん?」


「あー、なんや今日は変なんや」


結局、探し人は見つからず。


「なんやろあの子、後輩なんかな。財前あたりに…」


「俺がどうかしました?…つか、お客さんッスわ」


「あぁ財前、丁度え…え…、」


「部活中にごめんなさい」


委員会で少し遅れて来た財前の後ろには、探していた一目惚れの君。


「なんや小春さんに用とか…」


「あら名前ちゃんじゃなーい!どうしたん?」


「えと、これ生徒会長から。急ぎだとかで」


「あぁ、予算報告のアレね。会長も人使い荒いわぁ〜」


「小春ちゃんが優秀だからだよ。それじゃ、部活頑張って」


そう言って立ち去ろうとする彼女の手を、思わず白石は掴んでいた。


「あ…、えと、どうかしました?」


「どうも何も、あかんて名前ちゃん」


小春が呼んでいた名は一瞬で脳裏に刻み戸惑っている彼女の顎を掴んで、言う。


「キスしてええ…?」


「?!!」


赤く染まる表情も堪らない。すっ、と自分の顔を近づけると…、


「いっだ!」


ばこんばきんぼごっ。
解説すると謙也に頭を小春に腕を財前に脇腹を攻撃された。


「いきなり何さらしとんのや!」


「積極的なのは良いけど、順序ってのがあるんやない?」


「部長最低ッスわー」


「失礼しました!!」


「あ、待ち…ぐはっ!」


彼女は逃げるように…というか逃げた。
ぴゅーと部室から走り去ってしまい、追いかけようとしたらまた叩かれた。


「お前な、なんや今日はおかしい思てたらいつの間に名前に惚れたんや」


「名前ちゃんはああ見えて難攻不落やで〜」


「まぁ、部長みたいに迫られたんは初めてやと思いますけど」


「え?なんでお前らみんなして名前ちゃんのこと知っとるん?!」


「「「は?」」」


「……………」


いたたまれない空気が流れ、財前の視線が冷たくなる。


「え、お前名前のこと知らんの?」


「いや、まぁ病気がちやさかい休むことも多いんやけど」


「ていうか、よく知りもしない相手にあんな迫り方したんスか…?」


「おん。一目惚れやから…」


「………俺、部長ってもうちょいマシな人物やと思ってましたわ」


「いや、財前。絶頂なんか言うとる奴がマシな人物なわけないやろ」


どんどんと冷たくなる彼らの視線が本当にいたたまれない。


「蔵リン、名前ちゃんはな…」


「おん」


「四天宝寺中学校生徒会の副会長やで」


「はい?」


「部長、いくらモテるからってもうちょい異性に興味持った方がええですよ」



うんうんと頷く謙也が、妙に腹立たしかった。







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