駄目なのは君のせい
「まぁ、確かに帽子を前後ろ逆に被ってあんなに似合うのは宍戸君かポケ●ンのサ●シぐらいだけど」
「友人の跡部様ファンクラブ会員証へし折るよ?」
「本当にスイマセンでした。それだけは止めて下さい」
深く頭を下げるぐらいなら最初からアホなこと言わないで欲しい。いや、本音かもしれないけど。
「で・結局雨の中家まで送ってくれたの?」
「うん。それでね、宍戸君スター●ォーズ好きなんだって!」
「あー、名前大好きだよねエピソード3」
「最後の師弟対決の話で盛り上がっちゃった」
「確かにR2-D2は好きだけどね」
「ちょっとそこはルークでしょ」
「エピソード3の話じゃなかった?!」
ちなみに友人は本来邦画派であるがスターウ●ーズは私が無理矢理観せた。私は根っからの洋画派だ。
「それより話戻して、確かに格好良いとは思うけど…あ、勿論この世で一番格好良いのは跡部様だけど…何?宍戸君に惚れちゃった?」
「うるせーよこの雌猫が」
「声真似うまっ!ちょっとそれで名前呼んでくれない?」
「フツウに嫌。………惚れ、たのかなぁイマイチ惚れた腫れたが分かんない」
残念ながら私は今まで恋というのをしたことが無い。
誰が格好良いとか、好きかも、的なことはあったが今思えばみんな友人が好き的な感覚だった。
「んー、宍戸君のこと目で追ってたりする?」
「え、なんで知ってんの?!」
「他の女子と話してると苛ついたり?」
「あ、跡部様ファンクラブの子がベタベタしてて嫌がってるなら離してやれよーとは思った」
「完全に惚れてるじゃな………、ちょっとそれ誰だった?跡部様というお方がありながら他の男に近寄るなんて会則第3条に基づいて成敗してくれる!」
「行ってよし。戻ってくんな」
なんで友人の世界はこうも跡部君中心で回っているのか。43の音楽教師の真似をして見送る。
(やっぱり、宍戸君のこと惚れてるのかぁ)
あ、実感したら恥ずかしくなってきた。
「…お前ホント声真似うめーな」
「ふ、何を隠そう私は百の声を持つ女」
「忍足のパクリじゃねーか」
「忍足君のは絶対盛って…って宍戸君?!」
ガタガタガタッ!椅子を鳴らしてのオーバーリアクションは彼のせいだ仕方ない。
「今更かよ」
「気配を消すの良くない」
「気付かない方が悪い」
いつのまにか友人が座っていた席に居た宍戸君に吃驚する。
「ていうかテニス部、なんか呼び出しかかってなかった?」
「あぁ、あの俺様放送な…」
生徒会長である跡部君は結構職権乱用というか、ゴーイングマイウェイというか、何でもアリだ。
「あー、あのさ名字」
少し言いにくそうなのが珍しくて何事かと思いながら飲みかけの緑茶を口にする。
「お前、好きな奴いる?」
「げほ…っ!」
まさかの爆弾投下により緑茶は変なとこに入った。ごほごほごほと盛大に咳き込めば、心配げな表情で背中をさすられた。あ、涙出てくるし。
「………大丈夫か?」
「うん、多分」
「多分かよ」
なんだろうこの九九式艦上爆撃機(マニアック)は。命中率80%だったらし…じゃなくて。
「…何故さようなことをお尋ねになるのでしょうか?」
「何キャラだお前は」
「とにかく!何で?」
あれ、おかしい。なんで運動もしてないのに心拍数急上昇?確かにさっきは咳き込んでいたけどそんなんじゃなくて胸がドキドキしてる。心臓が口からこんにちはーって待て待て待て心臓よ落ち着くんだお前は口からこんにちはして良い存在ではない。
「や、実はさ…」
「うん、」
ドキドキドキドキ。
ちょ、心臓五月蝿い。
「マネージャー、やって欲しいんだ」
「意味が分からないので説明を要求します」
………なんだこの脱力感。
誰だよ宍戸君を九九式艦上爆撃機なんてマニアックな例えしたのは。…あ、私だ。
「いやさっき跡部の呼び出しでさ、ミーハーじゃなくて使えそうな女子がいたらマネージャーにしたいって言うからさ。
名字、別にテニス部で好きな奴とか居ないだろ?」
「…………………………」
なんだろう。宍戸君がそう思って指名してくれるのはスッゴく嬉しい。本当に嬉しくて喜びたいぐらいなんだけど…、
「駄目か?」
テニス部のマネージャーなんてファンクラブの雌猫共に何言われるか分からない仕事なんてやりたくないけれど、宍戸君の頼みなら聞き入れてあげたい。けど。
「または実は誰かのファンとか?」
ごめん、宍戸君の期待を裏切るのは大変心苦しいけれど。
目の前の人物のファンなんです。