せめて激しく抱いて
片恋みたいな気分です。
私達、恋人同士なのにね?
私とどちらが大切なのと、ありふれたドラマみたいな台詞を吐いたら、君はどんな顔をするのかな。
「−−−…‥、」
あんなに大好きだったのに。
今もこんなに大好きなのに。
(あの時が、一番楽しかったかも)
君と結ばれる前は、些細な事で幸せになれた。すれ違ったり、名前を呼んでくれたり、一緒にお話出来たり。それだけで世界中の誰よりも幸せになれたのに。付き合ったら、人間はワガママになって、もっともっとって欲しくなる。
でもね?
私、我慢したよ。
嫌われたくないから、一生懸命良い彼女を演じてた。迷惑になりたくないから、邪魔したくないからって。
−−−でも、もう良いの。
だって君は、私のことなんか必要としてないんだもん。
「…っ、」
馬鹿みたいだ。自分から別れを告げたのに、泣く権利なんて無い。
ただ、どんどん離れてしまう君に私が耐えられなくて。
私が恋したのは、偶然隣の席になった君。
生徒会長でも、テニス部の部長でもない、私のクラスメートで同じ委員会だった手塚国光だったのに。
「…ふぇ、」
ぐにゃり。視界が歪む。
ぼろぼろと溢れ出す涙は次から次と止まらない。
「ぅ…、」
あぁもう限界。
立ってるのもツラいぐらい痛い。痛い。痛い。
「名前!」
「!」
聞き慣れた声は、嘘かと思った。
切羽詰まったみたいな、彼にしては珍しい。
「や…、だ!」
ぎゅう、と強く抱き締められるけど。
それが余計に痛くて抵抗する。
「やだ…っ!」
何が嫌なのかもう分からない。ただ、こうして痛いぐらいに強く抱き締められるのが…酷く自分を欲しているのだと、勘違いしそうになる。
「名前、」
だから、そんな風に名前を呼ばないで欲しい。
急に頬に手を伸ばして、視線を合わせないで欲しい。
そんな苦しそうな瞳をしないで欲しい。
耐えられなくて、顔を背ければ酷く優しい手が髪を梳く。
「すまない」
「………」
あぁもう反則だ。思考はぐちゃぐちゃで、ついでに顔も酷い。
「俺には、お前が必要だ」
ほら、君は簡単に私の欲しかった言葉を寄越す。本当に私、馬鹿みたい。
「国光…」
離さないと言うような強い包容と息を奪う口付けにくらくらする。
−−−ねぇ、君が私を想うならせめて。
もっと激しく抱いて。