チョコレートシャワーと赤い傘
ザァザァと、酷い雨。
脳裏によぎったお天気お姉さんの笑顔に憎しみが湧き上がるけれど、だからって雨が止むか?止むワケがない。
ちくしょう図書館の本の返却日なんかちょっと過ぎても督促状という図書委員からのラブレターを貰うだけなのだから返すのは明日にすれば良かった。いやでも帰路で降られるのも困る。うん、雨、貴様が全面的に悪い。お天気お姉さんは美人だから許そう。例え今日がエイプリル・フールでもないのに朝から「今日は洗濯日和な快晴になるでしょう」なんて笑顔で嘘をついたとしても。そうさ、お天気お姉さんは“洗濯日和な快晴”とは言ったけれど“傘の要らない日”とは言ってないし、こんな大雨の日に敢えて洗濯を干すことに快感を覚える変な人間かもしれないじゃないか。
「ハァ…」
勿論そんな思考全てがどうでも良くて、私は現在進行形で困っていた。
(傘、無いし)
友人も帰ってしまったし、親は迎えに来れないし、雨止みそうにないし。
「もー、」
仕方ない。潔く濡れて帰るか。
気温的には風邪は…ひかないであろうと自己暗示。
よし、と足を前に出す瞬間。
「名字?」
「!」
予想外の声の主は同じクラスの宍戸君。が、何となく彼には不似合いな赤い傘を持っていた。
「宍戸君…、部活は?」
「この天気だし、今日は中は使えないからな。休みになった」
氷帝には雨天時の室内練習場がある。が、確か調整か何かでしばらく使えないと放送が入っていたのを思い出した。
「お前、傘忘れたのか?」
「そんなことありますよ」
「変な日本語を使うな…」
ぶっちゃけ宍戸君は嫌いじゃないし結構良い人だと分かるが“あの”テニス部だ。
平和な日常の為にはあまり関わらない方が賢明なのだと知っている。けど…、
「入っていくか?」
「いくいくーって、え?良いの?」
「この雨の中、濡れて帰る気かよ」
いや確かに雨足はテンションハイらしく止む所が酷くなる一方で。
家までは歩いて帰れる距離だがそんなに近いワケでもない。
「や、でも迷惑じゃ…」
「そう思うなら最初から言わねーよ」
おぉ、男らしい。
格好良いじゃないか…ではなくて。
「相合い傘になるよ?」
「俺は気にしねーけど…、嫌なのか?」
「宍戸君が嫌じゃないならお願いしたいです」
「なら最初からそう言えよ。変なトコ気にすんのな」
君が気にしなさ過ぎ…との言葉は飲み込んだ。多分彼はそういう人なのだろう。
「濡れないか?」
「大丈夫、ってかむしろ宍戸君が濡れない?」
少し大きめな傘は明らかに私の方に寄っていて、おかげさまで肩ぐらいしか濡れていない。
「俺はいーんだよ。女より自分を優先するなんて激ダサだろ」
「…ありがとう」
当たり前のように言われた言葉が、何となく照れくさい。
顔の赤は多分傘の色が透けたからで、決して赤面とかじゃない。
こんなシーン、テニス部のファンの子に見つかったら面倒なんてレベルじゃないことに巻き込まれるって分かってるのに。
(幸せ…かも)
そんなこと気にすることが出来ないぐらいには、胸がドキドキしています。
……………
title:ミシェル
男前な宍戸さんを書きたかった…はず。
純情な彼も好きですが男前な方が好きです。