油断も隙もなかったり
あの後、総額いくらかは知らないが相当な量の花火を使い切って…今は風呂上がり。
「風呂上がりで俺様に会いに来るなんて可愛いとこあるじゃねーか」
「風呂上がったら強制的に集合って言う可愛げのない魔王が居たからね」
「ふふ、魔王って誰のことかな?」
「もうやだ。青学に行きたい」
「お前ならいつでも歓迎するぞ」
「待ちや手塚君、名前は元々は四天生やで?
ここは俺らんとこに帰ってくるんが道理ってやっちゃ」
各校部長の集いに来たのは、私の任意ではない。我らが魔王の呼び出しのせいだが、理由は不明。
「英二達と枕投げの予定だったのにー」
「なんや俺らんとこの誘い断ったと思ったら」
「なんで合宿でジ●リ鑑賞会なのかが分かんない」
「千歳の趣味や」
「家でやれ」
「ラピ●タもあるで?」
「………明日行く」
「ちょっと、名前は俺らのことないがしろにし過ぎじゃない?」
「普段構ってるじゃん」
そう言ってなんとなく空いている蔵の横に座ればするりと髪に指を通される。
「んんー、えぇ匂いやな」
「あー、忘れてた」
蔵は髪フェチ、というか。シャンプーの香りフェチというか。とにかく、香りの残った髪を好む。
「白石、俺の前で名前とじゃれ合うなんて良い度胸だね…?」
「久しぶりの再会なんやから大目に見たってや。…それに、俺の隣に来たんは名前やで」
「はいはい、どーでも良いから話進めよう。何の用だったの?」
面倒になりそうな2人を遮れば、手塚が口を開く。
「いや、特に用事は無いが幸村が呼びたいと言っただけだ」
「Why?」
「なかなか良い発音じゃねーか」
「えへ、柳生のおかげ…じゃなくて。意味もなく私の枕投げの時間を奪ったのかな君は?」
「意味ならあるよ、虫除け」
「そんなんスプレーで済むから」
(((本気かボケか分からない…)))
珍しく判断しづらい台詞に、彼らの内心が一致したことなど私が知るわけもなかった。
「隙あり!」
「ちょ…待っ!」
「名前は本当に容赦ないね?」
「周助が言うか」
先輩vs後輩…ということで、名前の投げた枕が桃城にクリーンヒット。
「桃ちゃん!傷は浅いでぇ!」
「金太郎…、俺に構うな」
ありきたりな茶番劇を繰り広げる2人はさて置き、乱戦は継続中。
「名前先輩相手やとやりにくいッスわ〜」
「残念やったな光!」
「いや謙也さん特に何もしてへんやろ」
「英二パス!」
「任せるにゃ!」
英二に渡した枕は海堂を狙うが、残念ながらキャッチされる。
「いきます…よっ!」
「なんや危ないなぁ」
「侑士、また来るよ?」
「下克上等!」
「枕投げでかいな?!」
やたら侑士ばかり狙われているのは多分気のせいだろう。
若の枕をキャッチした彼は溜め息をつく。
「名前〜お菓子持ってきたぜぃ」
「うっわー盛り上がってるC〜!」
「あ、おかえりー」
お菓子やら飲み物やらを持って来た彼らにより枕投げは一時中断。
「何にしよっかなー」
ガサガサとあさっていた手を、がしっと掴まれる。
「名前先輩、次のラウンド俺らが勝ったらポッキーゲームしてくれまへん?」
「光?!何言うとんのや…っ!」
「クス…、なら君達が負けたら何してくれるのかな?」
「不二先輩まで?!」
「先輩方が勝ったら、先輩方がすればええやないですか」
「私にメリット無さ過ぎじゃない?」
「よーし俺頑張るにゃー!」
「名前!ポッキー余しておけよぃ!」
全体的にノリノリな雰囲気に、身の危険を感じる。
「じゃ、千歳とト●ロ観ようっと」
「面白そうばい。俺も参加するとよ」
「何で来ちゃうかな?!」
「逃がさんナリ」
「お前もか!」
そそくさと退室しようとしたら、千歳と雅治に捕まった。
が。
「あっ!」
するり、と。
久しぶりに本気を出して雅治の腕から逃れ部屋を出る。
「名字?どうし…」
部屋を出た先で見つけた怪訝な表情を浮かべる手塚の背に、取り敢えず隠れるように抱きついた。