一目惚れかも
可愛い、と素直に思った。
氷帝の女子生徒は、まぁ仕方ないと言えばそれまでだが所謂“お嬢様”が多く、外見を良く魅せるのにお金をかけるのが大半だ。
それを一概に悪いとは言わないけれど、個人的には鼻につく香水や傷めてまで飾る髪の良さが分からない。
けれど。
「おー、背ぇ高い!羨ましー!」
ロリポップをくわえながら無邪気に俺を見上げる飾り気の無い先輩のことは、素直に可愛いと思った。
「名前は小せぇからな」
「亮の身長が劇的に縮みますように」
「それなら名前ちゃんの身長が劇的に伸びるんを期待した方が現実的やで?」
「忍足、察してやれ。名前はもう自分の背が伸びないことを…「黙れ跡部」…俺様の足を踏むな」
「名前はこの身長でEーんだよ!抱き締めやすいC〜!」
「「「ジロー、今すぐ離れろ」」」
「ちぇ〜」
女子達に辟易しつつある先輩達に愛されているらしい彼女は、宍戸さん達と氷帝学園の幼稚舎からの馴染みらしい。
「いーなー、10cmぐらい頂戴?」
「いや無理だろ」
「なら5cm」
「そこは問題とちゃうがな」
きらきらとした目で見上げてくるのが可愛い。
けれど彼女は自分より年上で、無邪気なようで結構毒を吐くらしい。さっきだって跡部さんの足をぐりぐり踏んでいたし。
なんというか、そこが良い。
可愛いのに、中身は面白くて、先輩には失礼かもしれないが…構いたくなる。
「身長はあげられませんが」
「?」
ひょい、と抱き上げれば予想外だったのかきょとんとした顔。
「抱っこならしてあげますよ」
「へっ?」
「名前先輩、軽過ぎじゃないですか?」
「待て待て待て待て。ごめんよく分からない取り敢えず冷静に降ろそうか」
「先輩が可愛いから嫌です」
「意味を分かりたい」
「だから名前先輩が可愛「言うなぁ!恥ずかしい!」…どっちですか」
ようやくジタバタと暴れ始めたけど、体格的になんてことなくて。
仔猫がじゃれついてくるみたいで一層可愛い。
「おい宍戸…、鳳はどうしたん?」
「俺に訊くな。長太郎的に何かあったんだろ」
「AーズルいC〜!俺も名前を抱っこしたE〜!」
「おい鳳!名前を愛でるのは俺様の特権だ!」
「黙れ跡部」
「跡部に黙れなんて言えるんは名前だけやろなぁ」
「黙れ忍足」
「…ぐすっ」
「おい長太郎、いい加減降ろしてやれ」
「…宍戸さんに言われたら仕方ないです」
「おっま!私の言葉は無視したくせに!」
降ろせば、若干赤面した姿が可愛らしくてもう1度抱き締めたい衝動に駆られたがすたたたーっ!と逃げられてしまった。
「で、俺の後ろに隠れんのかよ。激ダサだな」
「今頼れるのは亮しかいない」
むか。
宍戸さんの背中に隠れるのは可愛いけれど、宍戸さんを頼りたくなる気持ちは分かるけれど。
「やっぱり、抱き締めて良いですか?」
あ、ダッシュで逃げられた。