ぼーいみーつがーる
体育(外でサッカー)が長引いて、いつもならダラダラ教室に戻るのだが…急な時間割変更により次は時間に五月蝿い木村なことを思い出して俺(正確には俺を含む男子達だが)は廊下を走っていた。
「赤也!こっち通ってこーぜ!」
そこは特別教室の並ぶ廊下で、俺達のクラスまでのショートカット。
普段は用がないならあまり行くなと言われるルートだが緊急事態だから仕方ない。
「お先!」
「あ、テメ…っ!」
友人を置いて加速すれば非難の声が背中にかけられる。
突き当たりを右に曲がった先。
ギリギリ間に合うな、なんて思った瞬間。
「え?」
「!」
曲がり角から女子(先輩だと思う)が出てきた。
俺只今全力疾走。
車は急に止まれない?人間だってそうだよ…じゃなくて!
「危ね…っ!」
ひょい。
「え?」
彼女は臆することなく近くにいた女子を守るように避け、更に急ブレーキをかけた為に躓いてバランスを崩した俺を支えてくれた。
「おっと、大丈夫?」
流石にその細腕では俺を支えきれないらしくよろめいたが、その人はケロッとしていた。
「急いでるのは分かるけど、ブレーキが効く範囲の速度で走りなよ」
にこっとした笑みにポカンとしてる間に次は気をつけろよーなんて言葉を残して去ってしまった。
「赤也大丈夫か?」
「さっすが名字先輩。カッケーな〜っ!」
遅れて来た友人はさっきの様子を見ていたらしい。
「名字…?」
どこかで聞いた名だが、それがどこだったか覚えていない。
「知らねーの?部活には入ってねーんだけど、めっちゃ剣道が強くてだな…、」
友人が説明らしきをしているが、全然耳に入ってこない。
(美人…だったな、)
焦るでもなくサラリとした身のこなしをする美しい人。
「って、ヤベェ!チャイム鳴っちまう!」
「あ」
キーンコーンカーンコーン♪
「「「……………」」」
無情な音が、廊下に響いた。
「………幸村君、どうしたの?」
少し考え事をしていたら、クラスの女子に話しかけられた。
「あぁ、ちょっと部活のことでね」
人の良い笑みを返せば、彼女は頬を赤らめてそっか、とだけ言って去っていった。
(あーゆー子じゃ駄目なんだよなぁ)
俺が考えていたのは今度の合同合宿の際のマネージャーについて。
レギュラーしか行けないからパシ…サポート役が居ないのだ。
(相談してみるか)
俺や真田の求める人材が簡単に見つかるとは思えないけど。
「くしゅっ!」
「なんじゃ名前、風邪か?」
「いや…、」
花粉症でも風邪でもないのに、いきなりくしゃみが出た。
(噂でもされたかなぁ…?)
そんなワケないかと考えてから、黒板の文字を追っていった。