2人だけの空間は
「名前〜っ!」
ぎゅう〜っ!と抱きついてくる男の名は仁王雅治であり、私の恋人だったりする。
場所は教室。時間的に担任はまだだがクラスメートはだいたい揃っているのにも関わらず朝から大胆なことだ…と、他人事みたいに思えるのは毎朝のことだからである。
「おはようナリ」
「うん、おはよう。でもさ?」
季節は夏の暑さの残る9月。
まだ気温の上がりきっていない朝だとしても、暑いものは暑い。
「暑い。ていうか、雅治暑いの苦手じゃなかったの?」
「名前を抱き締める>暑さじゃ」
「さようですか」
ベッタリと寄り添われてフツーに鬱陶しいが、離れてくれないことなどわかっているし…何やかんやで許してしまうあたり私も甘い。
「お前ら暑くねーの?」
そんな様子を見たブン太の感想は全面的に正しい。暑くないわけが無い。心頭滅却すれば火もまた涼しくなるとでも思ってんじゃねーよといった感じだ。
「暑いに決まってる」
「だよな。つーか、仁王て暑いの苦手じゃなかったか?」
「名前を抱き締める>暑さダニ」
「さよけ」
彼は賢明なことに雅治の甘えたモード中の扱い方を理解している。諦めが肝心だということを。
「んー、絶頂じゃ」
「白石君かよ」
「誰だよ白石君」
エクスタシーとか日常会話では滅多に使わないであろう単語を口走った雅治は多分暑さにやられたに違いない。
「四天宝寺っつー大阪にある中学のテニス部の部長。絶頂が口癖らしいぜぃ」
「変態じゃのぅ」
「つい数十秒前の自分の台詞振り返ってみて?変態が居たから」
「俺は変態じゃなか。例え変態だとしても名前限定ナリ」
「すっげ嬉しくない」
「ピヨッ」
ペシリと頭を叩けば、いつもの口癖(?)
「まぁプピーナとかピヨッとか言ってるお前も十分変だと思うけどな」
「わー、ブン太が言ってると違和感しかない。きしょい」
「確かに気持ち悪いのぅ」
「え、俺の扱い酷くね?」
「俺と名前のイチャイチャタイムを邪魔するからぜよ」
「あのさ、名前と席が隣同士なのは俺。お前の席はあっち。…言いたいこと分かったか?」
「これあげるナリ」
「おぉ!これ最近出来た喫茶店の数量限定クッキーじゃん!…仕方ねーなぁ」
「ブン太は買収するのが簡単だよねー」
「単純だからの。だいたい名前の横に居て良いのは俺だけの特権じゃ」
「仕方ないなー」
よしよしと頭を撫でれば、ゴロゴロと甘えられる。
「好きじゃ」
「私も」
ふわふわとした時間が、そこにはあった。
「せんせー、仁王君と名字さんが違う次元に旅立ってます。あ、あと丸井君がクッキーから離れません」
「…もうそいつらは放っておけ」
「そーいやせんせー、彼女サンと別れたんですか?」
「………出席とるぞー」
3−Bでは毎朝のことです。