想いだったり




もやもや。いらいら。


「そんなに構って欲しいならいつもみたいに行けば良いじゃないですか」


「なんで分かるのかのぅ」


俺は今、イラついている。
勿論暑さのせいでもあるのだが。


「幸村君や切原君も同じような状態ですし、何より彼女が傍に居ると苛立ってませんからね」


名前は今、青学と四天宝寺の連中と水鉄砲で遊んでいて。


「名前先輩ズルいッスよ!」


「水鉄砲かー、ジャッカル!買ってこい!」


「俺かよ!?」


赤也やブンちゃんなんかは自ら参戦しに行くのだが、如何せん暑さにやられて動きたくない。

というか。


「片思いしてる気分ナリ」


「………随分似合わない台詞ですね」


眼鏡のブリッジを直したこの似非紳士の眼鏡を割りたくなった。なんて思ってた時、


「!」


「おぉ、びっくりした?」


首筋のひやりとした感覚にビクつけば、片手に袋を下げ、もう片方の手に冷えた缶を持った名前。


「雅治が暑いの苦手って言うから、海堂と桃にパシらせた」


にこ、と笑いながら渡された冷たい缶。


「柳生もどーぞ。アイスティーで良い?」


「えぇ、有難うございます。

それから少し仁王君を頼みます。いつもよりワガママなので必要とあらば制裁しても構いませんよ」


「はーい」


名前は柳生にアイスティーを手渡すと、俺の直ぐ隣に腰を下ろす。柳生が紳士ではないことについては今更なのでスルー。


「此処、涼しいね。少し休もうと思ってたから丁度良かった」


「ずっと此処に居れば良いぜよ」


「へ?」


すとん、と伸ばされたナマ足に頭を置く。


「雅治、くすぐったい」


直接髪が触れるのがくすぐったいらしいが、関係無い。


「このままが良いナリ」


「もー、本当にワガママ」


苦笑しながら、鼻をつままれ俺はふと真面目な顔になる。


「名前…、」


「んー?」


−−−無邪気に首を傾げる彼女に、…訊けなくなった。


(昨晩の、白石と…)


自販機に買いに行った際の2人…名前の雰囲気は、どこか危うげで。遠くに居るような、そんな感じがして。


(何の話じゃった?)


訊いたら、壊れてしまうだろうか。
いつもの変わらない時間が。


「………プリッ」


「? 意味分かんない」


怪訝な表情は最もで。


(詐欺師の名が泣くのぅ)


本気で、そう思った。















「というワケで、バーベキューを決行する」


「無茶振り過ぎないかい手塚?」


「いや、みんなには黙ってただけで前から準備はしてたんだよ」


不二の最もな発言に、大石は苦笑しながら答えた。


「んんー料理なら俺に任しとき!」


「白石は料理上手やからな!」


「なんで謙也が威張るかが分からへん。ちゅーか名前ちゃんの手作りがええねんけど」


「やだなぁ、名前の手作りは俺達立海だけの特権だよ?」


「それはそうなんスけど部長、その名前先輩は何処行ったんスか?」


よく分からない張り合いをする彼らのもとに噂の人物が帰って来た。


「ただいまー」


「白石ー!花火もろたでぇ!」


「ま、名前先輩のおかげッスけどね」


彼らの両手には大量の食材の入った袋と、金太郎の肩にはファミリーサイズ的な花火セットがかけられている。


「随分大量だな」


「サービスしてくれた」


一番軽い…と言ってもそれなりに量の入った袋を置けば、手塚は目を見張る。


「財前、どんなやった?」


「謙也さんの言った通りでしたわ。遠山のおかげでサービスしてくれるんは予想の範囲やったけど…、名前先輩の口説き文句。

姉さん方に花火セットもろてましたし」


「せやろ?名前は姉さんキラーやから」


「俺より人気でした」


「お前ナルシなん?」


そんな2人のやり取りなど知るよしもなく、名前は嬉々と宣言した。


「私は今日食べ専ね」


「えー!名前作らないのー?」


ぶーたれる英二と戯れながら、だって料理出来る人いるじゃーんと返す。


「野郎の作ったモンなんて美味くないッスわ」


「後輩の分ぐらいは作っても良いかな」


「後輩、と俺の分ね」



にっこり笑う精市に、結局食べ専にはなれないのだと悟った。








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