ラブコールを何度でも
周りからは、馬鹿にされるかもしれないけど。
流行りの恋愛小説みたいに、苦しいぐらいの熱情に焦がされて。それだけ好きになった人と劇的に結ばれるみたいな、そんな恋愛をしてみたい。
相手は大人な、優しくて頼れる誰もが羨む理想の人が良い。
なんて、夢見てたのに。
「だから好きだっつってんだろ」
苛立つ声音は、氷帝生なら誰もが知る…2年生ながらテニス部の部長にして生徒会長といった何かと肩書きの多い、けれど私に言わせれば“可愛げ絶無な後輩”ぶっちぎりのNo.1である跡部景吾のもので。
「知ってるよ26回目だもん。でもさ、君は年上を敬う気持ちを持つ所から出直して来い」
「あーん?俺様の所有物になる相手に敬う気持ちなんか要らねーだろうが」
「いっつも思うんだけどさ、寝言は寝て言え」
「お前こそ、いい加減に覚悟決めろ。俺を惚れさせたお前が悪い」
なんで愛の告白のはずなのに、こんなピリピリした空気が流れるのか。
少女漫画みたいなふわふわな告白なんて今時あるかは知らないが、少なくとも睨み合いながらの告白は少数派だと信じたい。
「毎日毎日ホントに飽きないよね。君こそいい加減に諦めて」
「俺様が狙った獲物を逃すとでも思ってんのか?
…こっちは本気で言ってんだよ、好きだってな」
年下のクセにやたら色っぽい声が耳を犯す。細められた目は、いつだか見た獲物を仕留める時の獣のそれで。
「私、年上趣味なんだよね」
「はっ、んなモン俺が変えてやるよ。つか1つしか違わねーだろうが」
生徒会室の壁に追い込まれて、他人にしては近い距離。
「好きだ、名前」
「先輩、ね。…27回も言われれば君の気持ちは知ってるから。知った上で断ってるの」
するりと腰に回った腕と、頬に添えられた男のくせに綺麗な手に不快感を表せば…彼は不敵な笑みを浮かべる。
それが格好良いなんて、間違っても言わないのだけど。
「何度でも言ってやるよ。お前が俺に、その言葉を返すまでな」
耳に吹き込まれた言葉にくらくらしてしまう。まるで毒みたいに、躯に廻る痺れ。策にハマってしまいそうになる。
「好きだぜ、愛してる」
嗚呼、ほら。感覚が次第に壊れてく。
こんな恋愛もありかもなんて、夢見てたのと全然違うのに。
侵蝕、されてく。
……………
素敵企画『板挟み』提出。