人げなかったり




「すっげぇ…」


「…あぁ」


「何してんだ?」


時刻はまだ朝の6時。
朝食は7時からだが、その前に軽く走ってこようかと思っていた宍戸は武道館前で止まっている海堂と桃城を見て首を傾げる。

が、すぐに答えは分かった。


「…!」


「はぁ!」


防具も付けずに、竹刀を叩き込む名前とそれを返す真田の姿。

激しい打ち合いに息を呑む。
もはや美しいとすら思える光景に、思わず見とれてしまった。


「止め!」


鋭い声は、師範こと石田のもので。


「………真田、」


不満そうな彼女の言いたいことを、彼は察したらしい。


「済まない。…が、防具を付けていない相手に本気を出すわけにはいかん」


「まぁ、確かに怪我したら洒落になんないんだけど」


はぁーあ、と息を吐き出しながら置いてあったタオルで汗を拭う。


「名前はん、ほんまに強いんですなぁ」


「んー、それなりにね」


苦笑しながら答える姿に覗き組はそれなりの域を越えただろうなんて思ったがそんなこと知る由もなく。


「………何やっとるん、自分ら」


いつの間にかいた謙也にそう突っ込まれた。















朝の稽古を終え(流石に真田に合わせて4時からというのは無理だった)シャワーを浴びて、支度を終えた午前7時過ぎ。


「遅れたら6枚に卸すからね」


「幸村、それはもはや刺身の域だ」


なんて魔王と参謀のやり取りがあったせいか、立海陣は既に揃って食事を終えていた。


「んー、良い匂いナリ」


「雅治?」


朝から髪に鼻を寄せる彼はいつから匂いフェチになったのだろうか。


「備え付けのだし匂いなんて変わらないでしょ?」


「あー、各部屋にあるシャワーんとこのは違うって誰かが言ってたな」


「ふーん」


さして興味も無く飲みかけのアイスティーを飲みきる。


「仁王、離れなよ。次は俺」


「仕方ないのぅ」


「私の人権はどこに行った?」


雅治が離れたかと思うと、次は精市の手が髪に触れる。


「お前の人権は俺らのものだろ?」


「………某ガキ大将もビックリな台詞だね。私、そろそろ準備しに行きたいんだけど」


しかし、長い指先が髪から離れることはない。


「精市?」


「もうちょっと居なよ。何か文句言う奴がいたら12枚に卸すから」


「幸村、だからそれは刺身の域だ」


我らが参謀の基本的に正しい所は立海において貴重だと思う。















「名前ーっ!」


ぴょーんと飛びついて来る少年をよろめきながら抱きとめる。


「金ちゃん、そげんな勢いつけたら危ないたい」


「?」


ごろごろと懐く金ちゃんばかり気にしていたが、その後ろの背の高い人物に首を傾げる。


「えーっと、千歳…?」


四天宝寺を紹介してもらう際に居なかったが蔵が言っていた名前を思い出す。


「名前とね?今朝の真田との試合は凄かったばい」


「え、何処で見てたの?」


「名前試合してたん?!なんで呼んでくれへんのや!

白石が言っとったでぇ、名前の剣道は半端な強さやないって!」


「明日の朝6時ぐらいに武道館に来たら多分またやるよ」


ぎゅうぎゅうと抱き締める力が強くなる。離れてもらおうと思ったその時。


「名前は仕事ばい。そろそろ離れんと毒手が来ると」


「えー、離れとうない…「いい加減にせぇや、金・太・郎?」…白石?!」


「蔵、部長は集合じゃなかったの?」


「今終わったねん。金太郎、いい加減に名前から離れんと…」


「わわ、離れるっちゅうねん!」


「大人げなか」


「中学生やからな」



にやり、と蔵ノ介は笑った。








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