知っているよ
がばっと後ろから俺に抱きついてくるような人物は1人しか知らないし、1人で十分だ。
いつもなら可愛らしい声で名前を呼んで、ふわりと笑う筈の彼女は何を思ったか俺の首を絞めた。
「げほ…っ、どうした?」
直ぐ手は離されたが、名前の表情と雰囲気は相当不機嫌モード全開だ。
「2年のミス立海に告白されたって知ってムカついたからですが何か文句がおありでしょうか?」
「………」
怒っている。というか、拗ねている。
確かに告白はされたし勿論断った。が、それは昨日の話で彼女に伝えたら不機嫌になる確率100%なので(自惚れでなく事実だ)黙っていたが………誰だ教えた奴。
「蓮二が“誰だ教えた奴”と思った確率100%………へぇ〜黙ってる気だったんだふーん?」
「教えたら教えたで今みたいになるだろう。言っておくが勿論断ったぞ」
「それも知ってる。泣きながらいきなり“貴女のせいで!”って喚かれて吃驚した」
「………」
本日2度目の沈黙。
なるほど、だから知っていたのか…じゃなくて。
ぎゅーっと後ろから抱きついている名前の腕の力が少しだけ強くなる。
「で、お前は何がしたいんだ?」
「特に何も。しいて言うならこのままでいたい」
「そうか」
こうなると彼女の気が済むまで放っておくしかないと、短くない付き合いで学んだ。名前は偶にデータの予想を大きく覆すが、拗ねた時はだいたい変わらない。
「蓮二、」
「なんだ?」
「嫌い」
「そうか。しかし、言わせてもらうがその言葉が嘘である確率…」
「0%だね。というワケで、そんなに君を想っている恋人のささやかなお願いをきいてくれないかな?」
本当に自分が振り回されるなんてらしくない。
けれど、それでも構わないなんて思っているあたり本当に重症だ。
「好きって言って」
「………ふむ、」
肩にかかる腕を払い正面からきつく抱き直してやれば、いっそう近くなる距離。
少し赤くなった耳元に唇を寄せて、言う。
「愛している」
「ん」
みるみる赤面するのがよく分かるが、離してはやらない。
顔を隠すように肩に沈む小さな頭を撫でながら、無意識に薄く笑みを浮かべた。
「俺には、お前しかいない」
「だから、知ってるってば」
にへら、と照れながら笑う名前を抱き直して緩く流れる幸せを感じた。
……………
急に蓮二を書きたくなりました。