劇薬中毒
「………」
「………、」
先ほどから、視線を送る。
読書のフリをしながら、本当は本の中身なんか全然入ってなくて。
パタパタとキーを叩く、その後ろ姿に。
「………はぁ」
一通り終わったらしい。彼女は冷めてしまったであろう珈琲を口にしてから回転式の椅子を回して此方を向いた。
それを待ってましたとばかりに本を閉じれば、俺の隣に名前は座る。
「終わったん?」
隣に座るその腰に手を回して尋ねれば、溜め息混じりに返された。
「まだ」
「早く終わらせんとヤバいんちゃう?」
「そこまで追い込まれてない。あとわざわざ家にまで会いにくる寂しがり屋の視線が鬱陶しくて」
やはり分かっていたらしい。
邪魔はしたくなかったが、分かってくれたことが嬉しい。
「スマンなぁ、邪魔しに来たわけやないんやけど…」
そう言って引き寄せれば、大人しく膝に座ってくれて。ようやく向き合う形になった。
「薄っぺらいカモフラしながら見てたクセに。………邪魔しない人は最初から私の家には来ません」
頬を抓られて、地味に痛い。
が、強く抱き締めて肩に顔を埋めればよしよしと頭を撫でられる。
「まぁ君にしては頑張ったかな」
「3日も会ってないんやで?名前不足が深刻で発狂してまうがな」
「侑士は私中毒だからねぇ」
「わかっとるやん…」
耳たぶを甘噛みすれば、くすぐったそうに身をよじられて。
(可愛ええ…)
その仕草1つ1つですら、俺を狂わす劇薬が。
中毒になるなと言う方が不可能だ。
「今夜はもう、離さへんで?」
「ん、」
するりと自然な動作で押し倒す。
(顔、見るだけ…なんて最初から無理やっちゅーねん)
−−−−−会っただけで、狂わされるのだから。
……………
全体的なテーマはくつろぎとかほのぼの…のつもりだったのに!
なぜこうなったし!