その時の彼女と彼ら
−−−土曜日
「一本!」
「かっこいー!」
「男子相手に全勝…、ありえねぇ」
青春学園・武道場
軽い練習試合のはずだったのだが、いつの間にか名前の独壇場になっていた。
「有難う御座いました」
面を取った中性美人の爽やかな笑顔に、女子の悲鳴が上がった。
「容赦ねー」
「完全に八つ当たりしているな」
立海大附属中・テニスコート
ブン太と真田が見ている先には普段よりも3倍鬼畜(柳談)な魔王陛下と詐欺師。
「ある意味、良い笑顔だ…」
ジャッカルが表情を引きつらせるのも仕方ない。
まだまだ続く八つ当たりに部員は悲鳴を飲み込む。
「名前がいねーと駄目だな」
いつもと少しだけ味の違うドリンクを口にしてブン太は呟いた。
「くしゅ!」
休憩中。
顔でも洗いに行こうと思っていたらくしゃみが出た。
「?」
誰か噂でもしてるのかなんて考えながら、両手で水を汲み顔にかける。
冷たい水が火照った頬に気持ち良くて、もう1度同じことをしてから首に下げたタオルで顔を拭く。
(水道から武道場遠いな…)
どうしようもなく遠い訳でもないが、立海に比べたらずっと遠い。
疲れていることだしのろのろと戻ろうと思って歩いていると…。
「ん?」
「あ」
コロコロと転がってきたテニスボールが足に当たった。
取り敢えず拾い上げれば帽子を被った背の低く少年(後輩だろう)がラケットを上げていて、軽く投げ渡せば器用にラケットで受け止める。
「あざーっす」
「どう致しまして」
それだけのやり取りをしていたら、立海の後輩が呼びに来る。
帽子少年が此方を一瞥したようだが特に気にすることもなく私は武道場へと戻った。
「はーっ、名前ちゃん強いなぁ」
「侑士を投げ飛ばすぐらいだしな」
「名前ちゃんかっこEー!」
「いい動きしてやがるな」
「…ウス」
「………ねぇ、なんで居るの?」
確かに迎えに来るとは言ってたから、跡部が来るのは仕方ない。けれど…、
「なんで侑士とか侑士とか侑士まで…」
「なんで俺限定なんや?」
「他は実害ないもん。ていうか何この面子」
げんなりとして言えば樺地がドリンクを渡してくれてお礼を…じゃなくて!
「来なかった奴らは用事があるらしいぜ」
あぁだから何か物足りないと…でもなくて。というか用事がなかったら来たのだろうか。いや…若は来ないな、付き合ってる時間が勿体無いとか言って。
そう言えば部活が終わったら迎えに来ると言っていたから揃ってるんだろうなぁ、なんて考えて。
「意味を分かりたい」
「あーん?コイツらがお前に会いたいっつってついて来たんだよ」
「跡部ばっかりズルいやろ?俺かて名前ちゃんに会いたいねん」
「私は会いたくなかった」
頭痛がするのは疲労からではないだろう。むしろ練習よりも疲れた。
「わ、本当にいるにゃ」
そんな時。
「何しに来たんだ…?」
先ほどの帽子少年と同じ格好をした人物が2人、現れた。