れでも好きですか?




「逃がすか!」


「ごめんなさい本当に見逃して下さい!」


私、名字は只今全力疾走中。
国語教師(42/♂)に叱られたけど知るか馬鹿。生命の危機なのに止まるなんて自殺行為をする勇気なんか持ち合わせていない。

ていうか、叱るなら現在進行形で私を追いかける本来なら生徒の模範となるべき筈の生徒会長様を叱れ。


「おー、またやっとんのな」


「忍足!捕まえろ!」


「どいて下さい忍足先輩!」


ガシッ。


「すまんなぁ名前ちゃん。跡部に逆らうと後々面倒やねん」


「裏切り者!」


「よくやった!」


ジタバタともがく私を忍足先輩が背後から抱き締めて逃がさない。

そこに生徒会長様だの王様だの跡部様だの言って結局は俺様な跡部先輩が追いついてきて、酷く真剣に言った。


「けどな忍足、名前を抱き締めて良いのは俺様だけだ」


そして私が逃げられないように抱き上げられた。


「俺たまに本気で思うねんけど跡部ってアホやろ?」


あっさり私を売り渡した忍足先輩はそれだけ言い残すと、じゃあ頑張り〜とその場を去ってしまった。


「ちょ、忍足先輩覚えておいて下さいよ!!」


「そんなことよりお前は俺様だけ見てろ」


「はーなーしーてー下さい〜っ!」


連れ去られた先は生徒会室。ちょ、施錠する意味は…っ?!


ぼすっ、と上等なソファに押し倒される。


「あ、跡部…先輩…?」


「もう逃がさねーぞ?」


両手を縫い付けられて、真っ直ぐな瞳に射抜かれる。


「好きだっつってんだろ…?」


耳元で囁かれる低音域の声に思考が溶ける。


「や…、だっ」


「素直じゃねーな」


「…!んぅ…ぁ」


いきなり口の中を犯すような荒々しい舌が侵入してきて、生理的な涙が出る。


「ふ…、んん…っ!」


酸素不足を訴えれば一度だけ唇が離され、再び降りかかるキス。


「…っは、往生際の悪い女だ」


「先輩こそ…、諦めて下さい」


彼が私の何に惚れたのかは知らないが告白されて…。いやおかしいだろ、氷帝生とはいえ庶民な私にあの金持ち俺様文武両道色男が惚れるわけがない。だって私ただの一般生徒Aだもの。うん、本気なワケがないと断り続けて早1週間。

諦めるどころか日に日にエスカレーターじゃないやエスカレートする求愛行動に私の精神はブロークンハート。

別に跡部先輩が嫌いとか、他に好きな人がいるワケではない。


けれど…、


「報わないほど、熱くなるだろ…?」


その眼差しにまだまだ残る余裕が消え去ってしまうのを見てみたいなんて。


「冷めた時が怖いですよ?」



私、意外と性格が悪いみたいです。










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