それは寒い冬の日の話−前編−
「名前先輩、」
「どした?」
休憩中の赤也にタオルを渡せば礼の後に問われた。
「副部長と剣道で試合して引き分けた…って話じゃないッスか」
「そうだね」
「その時の話聞きたいッス」
「………何故?」
「あ!それ俺も興味ある!真田のヤツ詳しく教えてくれないんだよなー」
その話にブン太とジャッカルも混ざってきた。
「いつもならテニス部優先なのにいきなり明日は剣道で来るの遅れる、なんて言って帰ってきたら俺もまだまだだな、の一言。
柳が後日お前と試合して引き分けたって教えてくれたけど詳しくは俺らもわかんねーんだ」
「えー、そんなに面白い話でもないけど…」
思い出すのは去年の冬。
案外あっさりクラスに馴染めたなんて安心した頃−−−…‥。
×××
「お願いします!どうか我が剣道部に!」
「いや、いつでも遊びに来るからさ。入部するのはゴメン無理」
ちょっと体を動かしに行ったつもりだったのだが、主将に勝利してしまい、顧問や部員…負けた主将にまでしつこい勧誘を受けていた時。
「部長!真田先輩来ましたよ!」
「何?!名字済まない、俺は部活に戻るが…先ほどの言葉は撤回しないでくれよ!」
「分かったから早く行け」
しっしと部長を追い払うと、彼を呼びに来た1年が言った。
「部長がご迷惑をおかけしてすいません。先輩があまりにも強いから、どうしても引き入れたいみたいで…」
「ま、必要としてくれるのは嬉しいけどね。…それより、さっきの真田って?」
偶に耳にする名前だが、それが誰でどんな人物か全く分からない。
「真田先輩って言ってテニス部の副部長なんですけど、剣道もスッゴく強いんですよ!」
「…テニス部で、剣道?」
「家が道場らしいです」
「ふーん」
「名字先輩も見て行きませんか?今丁度…」
「いや、良い」
空を見上げてから、アッサリと断る。
「今日は冷えそうだから、早く帰りたい」
にこっと笑って荷物を持ち直し、簡単に別れの挨拶をすれば残念そうではあったが後輩は素直に部活に戻っていった。
「真田…ね」
どうせ明日には忘れているであろう名前を呟いて、帰路についた。
「意味を分かりたい」
同じクラスでもある剣道部部長(名前なんだっけ)に、嬉々とした表情で朝一番に伝えられた内容は。
「だから!真田がお前と試合したいんだって」
「やだよ興味ない。ていうかそれ誰だっけ?」
その問いに喰いついたのは、クラスの女子。
「名字さん、真田君って言うのは男子テニス部の副部長で凄く素敵な方で自他共に厳しく…」
キラッキラと目を輝かせる彼女はスルー。ファンだったのか、なんて思考も取り敢えず置いておく。
「あぁ、昨日来た…」
顔は見てないけど後輩君の言ってた人物だとは理解出来た。
「なんで?」
「俺が散々強い強いって言ってたら興味を持ったらしい」
「ぶっ飛ばして良い?」
長く溜め息を吐けば、でも!と彼は下がらない。
「お前も気にならない?めっちゃ強いんだぜ?」
「………」
確かにそれは気になる。
「1本勝負なら良いよ。ただし、今日は英語の予習あるから明日ね」