青春学園編・5
「おわったー!」
お疲れ様ーとの声に応えながら、いそいそと衣装を脱いで制服に着替える。
英二と周助は片付けがあるらしいから先に遊んでおいで…とは言われたのだけど。
(1人で回ってもなぁ)
手塚や大石は忙しいだろうし、と思っていたら後ろから少し引っ張られた。
「?」
振り返ると、リョーマが無愛想に言う。
「暇なら一緒に回らない?先輩に案内しろって言われたし」
「うん、よろしく」
少し素っ気ないのが可愛くて、私はそう答えた。
「名前と文化祭を回るなんて、良いご身分だのボウヤ?」
「アンタにはカンケーないと思うけど。…っていうか、なんでいんの?」
「わざわざ立海の生徒を駆り出しておいて言う台詞かい?」
「俺が頼んだわけじゃないんだけど」
「ねぇ、君達?通路のど真ん中で火花散らさないでよ通行妨害この上ない」
やっぱり、呼ばない方が良かったかもしれないと思いながら精市とリョーマを引き離す。ていうか仲が悪いなんて聞いてないぞこの2人。
「まったく、誰のおかげで演劇が成功したと思ってるんだい?」
「アンタのおかげではないよね」
座れる場所まで来て、途中で買ったクレープを食べながら相変わらずな2人に溜め息をつく。
来てくれたのは嬉しいが、火花を散らすのはテニスコートにいる時だけにして欲しい。
「だいたい、名前はなんでボウヤと回ってたわけ?」
「え。何か問題が?」
「無いと思ってるのがムカつくね」
皆さんは美人さんに笑顔でムカつくと面と向かって言われた経験をお持ちだろうか?なかなか精神的にツラいから、可能な限り回避することをオススメします。
「ていうか雅治達は?」
この男が1人でやって来たとは考えにくいのだけど。
「あぁ、さっき見つけた四天の人達と射的大会してるよ」
「「………」」
それは間違いなく近所迷惑ではなかろうか。そんな視線をリョーマと交わしていたら、黄色い声が耳に届いた。
「…の射的にスッゴいカッコイイ他校生がいるんだって!」
「あの制服って立海じゃないっけ?学ランの方は関西弁だったけど…」
顔が良いって得だなぁ、と思いながらリョーマの頬についたクリームを取ってやればども、と返された。
(こういう反応は新鮮だなぁ)
別に、現実逃避ではなくて。
「わぁお」
別に立ち寄る気はなかったのだが、人だかりと黄色い声。
立海の練習中に外野から聞こえるのと同種のそれが何を意味するのかはすぐに分かった。
「リョーマ、人の少ないとこに行こう」
「うぃっす」
ゴミを捨てに来たのだが、余計なものを見つけてしまった。ちなみに精市は先ほどふらりと現れた周助とどこかに向かってしまった。この2人は仲が良いらしい。植物がどうのこうの言ってたけど。
「けど、やらなくて良いの?」
確かに声は黄色い悲鳴だけでなく、何故か盛り上がっているようだ。
「んー、良いよ。人多いし…」
私は自分より低い位置にある頭に手を乗せた。
「リョーマと居たいしね」
「…っ、あっそ」
そっぽを向きながらも案内してくれるのが可愛くて、その背中に忍び笑いをもらした。