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「名前先輩!相変わらずッスね!」
「あはは。ねぇ、桃…その相変わらずが身長のことを指すとしたら君の靴が画鋲ケースになるよ?」
合宿先がまさか離島なんて聞いてねーよどうなってるの跡部財閥。むしろ国内かも疑問だと思いつつも、荷物を持ってロビーに向かえば真っ先に遭遇したのは青学御一行。
今回はマネージャーとか居るらしいから他にも女の子ー…と思っていたのだが、別口で来るらしい。野郎ばっかりのバカンスなんて精神衛生上よろしくない。
「名前!久しぶりだにゃー」
「おー、英二久しぶり。そして助けておくれ」
「………鳳君、何をしてるんだい?」
大石がそう問うのも仕方ない。だって私も問いたいから。長太郎に背中から抱き上げられている私は地面から離れ不安定な状況である。
「跡部さんに言われたんで」
「いや抱き上げとけとは言われてなかったよね?!」
牽制しろとは言ってたけれど。
「部屋が!広い!」
「あぁ、名前が小さいから余計…」
「亮は地味に私に喧嘩を売るよね。倍額で買おうじゃないか離せチョタ」
「長太郎、絶対に離すなよ」
「はい!」
「良い笑顔で返事すんな!」
部屋に荷物を運んでくれたと言うより、私も荷物と共に運ばれたと言うか…。
「じゃ、俺らは部屋に荷物置いてくる」
「行け。行ってしまえ」
しっしと手を振れば、渋々と床に下ろされた。
「寂しくなったら俺の部屋に来て良いですからね?」
去り際に後輩の抜かした戯れ言に、にっこりと応えてやる。
「早く部屋に帰れ」
親指を下にさげて、部屋の扉を閉めた。
滝の言った通り、今日はスケジュールが決まっているわけでもないらしく各自が自由に過ごしていた。…と、言っても取り敢えずみんなテニスコートに向かっていたけれど。
「あれ…どっちだろう…」
そんな中、ホテル内探索をしていると長めのおさげが特徴的な女の子が困った様子で立っている。
(青学の…?)
マネージャーが数人来るとの話だが、はぐれてしまったのだろうか。
「迷子?」
近寄って問いかければ、困り顔から安心したような表情へと変わる。
「あ、あの…部屋が分からなくて」
「どこ?」
カードキーの番号を見れば、今いる位置と正反対である。
「あー間逆だね。向こうだけど、案内しようか?」
「すみません、お願いします」
「どうせ暇だったし大丈夫。ところで、青学の?」
部屋に向かって2人で歩き出せば、はい、と彼女は続けた。
「竜崎桜乃です。あの、先輩は…」
「!」
当たり前のようにそう尋ねられて、目を丸くしていると、困ったような表情をされた。
「え…?」
「あ、ごめんごめん。この身長だから、高確率で年下に見られるからさ」
桜乃は残念ながら私より背が高い。彼女が1年だとしても同級生に思われるかと思っていたのに。
「そうですか?でも雰囲気とか、しっかりしてるし」
「………」
言われ慣れない言葉の攻撃力が、こんなにも高いとは。
「あ、それで先輩は…」
「ん、ああ…私は氷帝の名字名前。立派じゃないけど3年です」
そんなやり取りをしていたら、ようやく部屋へとついた。
「ありがとうございます。合宿中も迷惑かけるかもしれませんけど…」
「ぜんっぜん大丈夫。むしろ頼ってくれたら嬉しいな」
こんなに可愛い後輩が居るなんて。ちょっと青学に転校しようかと思った。
割と本気で。