ピンヒールのよく似合う
「なぁ、名前ちゃん」
真っ直ぐな、眼鏡越しの真剣な眼差し。
ぎゅっと握り締められた手が、逃がさないと言っているようで。
「…っ、」
身じろぎ1つ躊躇われる雰囲気が2人を包み、そして…彼は言う。
「俺にヘッドシザーズかけてくれへん?」
私は彼を背負い投げた。
「あっつ…」
日差しは特別強くないが、雲の無い晴天。加えて無風と言っていいぐらいには風が無く、何もしてなくても額に汗が浮かぶぐらいには暑かった。
「お前な…、あんまり脚出すなよ」
「だって暑い…」
ジャッカルが指摘する通り、私は今ハーフパンツの裾をまくっていて長さ的にはショートパンツになっている。
「連中にまた何か言われるぞ?」
「聞き流すから大丈夫。ちょっと氷帝のとこ行ってくるね」
タオルとドリンクを持ち直して、そう言った。
「メッチャ綺麗や…」
「ん?あぁ、確かに中性的だけど美人だよな」
氷帝側では忍足と向日、日吉が休憩中だった。
彼女は立海のマネージャーだということしか跡部から聞かされていないが、此方のサポートもしてくれ気の利く美人…というのが今の所の評価だ。
「あの美脚…、あんな完璧な脚が存在したってええんか?」
「侑士…?」
先ほどの綺麗発言は彼女全体を指したのかと思っていたのだが。
「あの白さ、膝と足首の形、引き締まりつつも触りたくなるような丸み…」
「変態先輩気持ち悪いです」
絶対零度の視線で日吉に言われるが、向日もそれに無言で頷く。
「お疲れ様でーす」
そんな時。
ひょっこりと噂の当人が現れた。
「あれ、ちょっと早かったかな?」
そろそろ試合が終わるであろうタイミングを狙ったつもりがまだ早かったらしい。
「わざわざ悪ィな」
「あ、お気になさらず」
取り敢えずタオルとドリンクを置いてその場待機。
「嬢ちゃん、名前は?」
「あ、そうだ。
立海マネージャー名字名前です、ちなみに3年生ね」
「俺は忍足侑士、侑士でええよ」
「向日岳人だ、ヨロシクッ!」
「2年の日吉若です」
「侑士に、岳人に…若ね。うん覚えた」
少しずつ覚えていかないといけないのでしっかり確認する。
「名前ちゃんか、ええ名前やなぁ」
少しだけ忍足が名前との距離を縮める。
「俺な一目見た時から思たねん。これはもう逃したらアカンて」
自然な動作で手を取り、ぎゅっと握り締められた。
「なぁ、名前ちゃん」
真っ直ぐな、眼鏡越しの真剣な眼差し。
ぎゅっと握り締められた手が、逃がさないと言っているようで。
「…っ、」
身じろぎ1つ躊躇われる雰囲気が2人を包み、そして…彼は言う。
「俺にヘッドシザーズかけてくれへん?」
名前はザワ…ッと全身に鳥肌が立ち、頭より先に体が動く。
−−−バンッ!
「おい侑…士?」
岳人が止めに入る前に、この試合は終了していた。
「一本…ですね」
それはもう綺麗な背負い投げに、若は感心したらしい。
「あ…って、ごめん侑士!大丈夫?」
いくら全身が拒絶反応を引き起こしたとは言え、素人に背負い投げはやり過ぎだ。
慌てて大の字になった彼の枕元にしゃがんで尋ねれば、低く呻きながらも目を開けた。
「本当にごめんなさい!」
「いや、今のは正当防衛だろ」
「謝る必要は無いですよ名前さん」
意外と薄情な身内の台詞を聞き流し、忍足は言った。
「あ、ええアングル…」
名前は今、忍足の頭のすぐ横に片膝をついている。
「………」
彼の言葉の意味を理解した瞬間、彼女はクラウチングスタートで駆け出していた。