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《俺はー Flaming ice ♪》
デンモクを弄りながら、跡部の歌を聴いて思う。
「英語の発音良いなぁ。…ところで忍足、次は天城越えで」
「まぁ跡部やしな。…俺に天城越えとかどう考えてもおかしいやろ。天城越えられへんわ」
履歴を辿って目に付いたものをせっかく提案したというのに。
《さらばー 地球よー ♪》
「相変わらず蔵リンの選曲は謎やわぁ」
「あ!ワイこれ知っとるで!」
確かに謎というか意外な選曲だ。いやちょっと待てこの次に私か、何を歌えと言うのか。懐かしのアニソン?アンバランスなkissでもすれば良いのか。
「飲み物持って来ましたよ…って、あれ。まだ悩んでたんですか?」
「ありがとうチョタ。いやだって何このカオスな履歴」
彼が持って来てくれたのはメロンソーダ。カラオケの際には適していないとわかっていても、私はつい炭酸を飲んでしまう。
「なら俺は黒毛和牛上塩タン焼680円が良いです」
「わぁ懐かしい、だが断る」
「あ。なら俺はいろは唄歌って欲しいッスわ」
「あざといな財前。うん、曲は好きなんだけどね?」
ていうか、なんで初対面でカラオケなのか。ハードルが高い気がするのは私だけじゃないはずだ。
高学歴も高身長も高収入も要らない。必要なのは身近な存在だ。
「越前と同じくらい?」
「ねーちゃんコシマエのこと知っとるん?」
どういった経緯かは謎だが大阪の四天宝寺に練習試合に来ている。
「なんや兄妹みたいやなぁ」
「それなら姉弟とちゃいます?」
私達を見ながらそう言うのは、確か財前と忍足の従兄弟の謙也だったか。名字が同じで紛らわしい。
「俺も身長が低かったらあんな風に接してもらえたんでしょうか?」
「気にしてんのかよ、長太郎」
「いえ、やっぱり俺は愛でられるより愛でたいです」
「………」
なんか似たような曲があったな、と思いながらも亮が吐き出したのは溜め息で。
「おい、お前ら…って名前何してやがる」
「金ちゃんを愛でてる…?」
「なんや金ちゃんばっか羨ましいわー。名前ちゃん、俺のことも愛でてくれへん?」
「跡部助けて白石怖い」
「ちょっとした冗談やん」
四天の部長である白石は一見フツウに良い人だと思っていたのだけど。
「それより跡部、何の用だったんだ?」
先ほどの続きを促したのは岳人だ。
「あぁ、今からカラオケに行く」
『は…?』
ここに居る跡部以外の氷帝全員の心が、珍しく1つになった瞬間だった。
「まさかバスが不調だからって…。ボーリングとかでも良かったじゃん」
「…ボーリングは駄目です。前に青学の奴らと行ったら途中から試合並に本気でしたから」
嫌な思い出なのか、若の表情が渋い。私はならテニスしろよと思ったのだが、口にはしなかった。
「…仲良いんだね」
しかし青学のみんなは割と常識人だと思っていたのだけど。やはり勝負事には熱くなるのか。
「次、名前だよ」
滝からほい、とマイクを渡される。
「え。待て早くない、てか曲入れてないよそして若歌ってよ」
「飲み物取ってきますね」
「裏切り者!」
自分と私の分のコップを持って、彼は逃げ去りやがった。