13
「もう帰るのかい?」
時間はまだ遅くはないが、此処は神奈川県。
「東京まで戻らないとだし」
「あ!俺んち泊まれるぜ?」
「いやブン太のとこは嫌」
「なら俺んとこに来んしゃい」
「ブン太と同じぐらい嫌」
「まーくんショック…」
結構本格的にショックっぽいが初対面の人の家に泊まる気は無い。
「うっせーぞ仁王」
「うるさいのはお前もだよ。俺が今話してるんだけど?」
「スイマセンでした」
「……………」
幸村を見た時は儚げだと思ったハズ…なんだけどなぁ。その笑顔は凶器だったらしい。
「まぁ、どうせ合宿でまた会えるし…遅くに帰すわけにもいかないからね。赤也、またで悪いけど駅まで送ってあげて」
「え。いいよ、道は覚えてるし」
「何かあったら跡部に申し訳が立たないからね。…赤也も、別に問題ないだろう?」
「あ、ハイ勿論!」
過保護、と思いはしたが跡部に私のこと電話で聞いてるらしいから、その際に彼が余計なことを言った可能性もある。
だとしたら申し訳ないのは私の方なのだが、断るのもなんなんで素直に送られることにした。
幸村部長が俺に話を振った時、その場でお礼を言ってしまうところだった。………後で他の先輩達には何言われるかわかんねーけど。
「ごめんね、わざわざ付き合わせて」
「いや、そんな名前先輩は俺らのために来たわけッスから気にしないで下さい!」
可愛いと思った女子なら今まで何度も見たことがある。けど先輩の場合はなんかこう…可愛いだけじゃないってか…先輩相手に失礼だけど愛でたくなるってか。
(丸井先輩も柳先輩も…)
何でもなさげに名前先輩に触れやがって。
「じゃ、この辺でー。わざわざ送ってくれた赤也には飴ちゃんをあげよう」
「…ってガキ扱いッスか」
「要らないなら私が食べる」
「いや貰います」
渡された飴玉は青りんご味。何故青りんごと思わなくはないが、有り難く頂く。
「合宿に来るんスよね?」
「あ、やっぱり行かなきゃ駄目?」
「当たり前じゃないッスか」
「うげー」
何でそんなに嫌そうなのか。…気持ちは分からなくもないのだけど。
「まぁ、素直で可愛い後輩のために行きますかね」
うちの後輩も見習えば良いのに、とぼやいた後にそろそろ時間だからと先輩は言った。
「ばいばーい」
「…っ、はい、また!」
まさか先輩相手にばいばいと返せるはずもなく、予想外の可愛さに俺はあてられるのだった。