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「一緒に来てくれたら、3DSあげるよ?もちろん好きな色で…」
「イエ、特注のアイスブルー持ってるから要らないです」
流石は跡部だよね。3DS欲しいって岳人と話してたら買ってくれるどころか特注カラー作ってくれたんだよ。親にそれどうしたのって訊かれた時にまさかそんなこと言えるわけもなく、「友人が景品で当てたんだけど、もう3DS持ってるしあんまりこの色好きじゃないからってくれたんだ」って我ながら苦しい言い訳だ。
…なんて言ってる場合ではなく。
駅で待っていようと思ったら喉が渇いたからと自販機に向かったのが悪いのか…。如何にもな変態っぽい人ではなく、どこにでも居そうなお兄さんに声をかけられた。
(いやでも忍足も見た目は良い部類だけど変態だしな)
最近は1人でふらふら出歩くことが少なかったから、さてどうしたものか。
「じゃ、友達と待ち合わせなんでそれじゃ」
そそくさと立ち去ろうとしたら、がしっと腕を掴まれた。きゃー痴漢よ!
「ちょっと、待ってよ。欲しいもの、なんでも買ってあげるよ?」
いや良いです。確実に貴方より財産的余裕のある気前の良い友人がいるんで。
「いい加減に…っ!」
離しやがれド変態と言いかけて、掴まれた腕が離された。良かった、根性のない変態で…と思うより先に視界に遮る影。
「ロリコンか何か知らないけど、早く失せないと…潰すよ?」
袋に入れた状態のテニスのラケットで腕を叩いたらしい。慌てて不審者は逃げて行ったし私も助かった。…が。
「助けてくれて有難う。そして誰がロリだ私は背こそ低いが顔は幼くないぞ」
「いや、その身長で何言って…」
「言うな!凹む!」
そう喚いた私の方を振り返って、彼は目を丸くした。
「?」
なんだこのワカメ野郎、また背が低いとでも…とそこまで考えてふと気付く。
ジャージ姿に、ラケット…
「あ、立海の人?」
「ってことは…アンタが氷帝の?あ、でもその制服見たことあるな………って中学生?!」
そこからかワカメ野郎。
「氷帝学園中等部3年、名字名前です」
中等部3年をやたら強調しつつ、にっこり笑う。目、以外は。
「先輩?!」
本気で驚愕しやがったので、ちょっと本気で氷帝に帰ろうかと思った。
「だからさ、ルキナを最強にするならマイユニを…」
「けど子世代だったらセレナが優秀だと思うんスよ」
立海に向かいながら赤也とゲームの話で盛り上がった。最初は失礼な野郎かと思ったが、先輩に対する敬意はあるらしい。
「あ、こっちですよ」
「おー、初めて来たー」
そもそも部活に入ってないのに、他県の学校に行く機会などそうはないだろう。
「連れて来たッスよー」
「おー、赤也。氷帝のマネってかわ…」
「どうも」
丁度テニスコートの入り口付近でガムを噛んでいた、赤い髪の人が近づいてきた…と思ったら。
「可愛いじゃん!つーか欲しい!あ、俺は丸井ブン太シクヨロ!」
ひょいと抱き上げられ…、激しく氷帝に帰りたくなった。