めまして



「うっわぁ…、此処中学校?」


バスから降りた場所はとても学校らしいとは言えなかった。

立海も広いし洒落た造りをしているが、氷帝はなんと言うか…如何にもセレブ校、といった雰囲気がある。


「転校回数5回でも驚くものなのだな」


蓮二に少し意外がられたが、転校回数は関係無いと思う。


「確かにあちこち転校したけど何処もフツーの学校だったから。

大学附属だから当たり前かもだけど、立海の広さにもちょっと吃驚したぐらいなのに」


「そうか」


なんて他愛ない話をしていたら。


「名前、おいで」


「?」


精市に手招きされた。


「これ、うちのマネージャーね。ちなみに剣道なら真田と張り合うぐらいには強いから間違っても手は出さない方が良いよ」


ポンポンと頭を叩かれる意味が分からないが、目の前の彼は氷帝テニス部の人間らしい。


「名字名前です、宜しく」


「俺様は氷帝テニス部の部長、跡部景吾だ。

…本当に真田と張り合えるのか?」



怪訝な表情で問われる気持ちは分かるが、今必要な話だろうか。


「………余計なこと言わないでよ精市」


「虫除け虫除け」


(お前の笑顔の方が虫除けになると思うがな…)


からからと笑う魔王に対して王様がそう思ったことなど、私は知らない。















「名前」


「何でしょう跡部サン」


試合を終えたらしい跡部にドリンクを渡すといきなり名前を呼ばれた。(テニス部の人間は名前呼びが当たり前なのだろうか…)


「なんだそのカタコトなさん付けは。呼び捨てで良い…つか名前で呼べ」


「えー、と景吾?」


「…なんで疑問形なんだよ。俺様の名前を忘れるとは良い度胸だ」


「覚えてたからセーフ。ていうか人の名前覚えるの苦手だから許して」


それで、と。


「何か用事だったの?」


話は最初へ巻き戻る。


「いや、ウチの連中の面倒まで見てもらって悪いな」


「そう思うなら氷帝もマネージャーを雇っておくれよ。あ、出来れば可愛い女の子で」


氷帝にマネージャーは居ない。
仕方ないので、というのと精市に「どうせ合宿にも来るんだから慣れておいたら?」と言われたのでどちらのサポートもしている。


「良い人材が居ねーんだよ。むしろお前がなれ」


「労働基準法に違反するから止めてよ。ていうか東京と神奈川だから」


「俺様に不可能はねぇ」


「私にはあるわ」


なんだこの俺様は。
いや氷帝のキングらしいから仕方ないのかもしれないが。


「名前〜」


「あ、雅治が呼んでる。じゃ」


「あぁ」


そのまま立海の方へ向かう私に向けられた視線は景吾だと思っていた。


この時までは。















「おっと…、」


タオルを渡す前に、ぎゅうっと雅治に抱きつかれた。


「まー君疲れたナリ〜」


「お疲れ様」


タオルで汗を拭ってやれば、ベンチに座らされて脚に頭が乗せられた。

つまり…膝枕、だ。


「あのさ、雅治」


「んー?」


「他の人にタオル渡しに行けないんだけど?」


「行かんでよか」


「…今日は甘えただね。そんなに疲れたの?」


鼻を摘めばピヨッと鳴かれた。


「氷帝じゃなくて俺を構って欲しいナリ」


「………よしよし」


猫かお前はと思いながら頭を撫でれば、気持ち良さげにすり寄ってくる。


「仁王君、次試合でしょう?」


「もう少しこのままが良いぜよ」


「名前さんの仕事に支障も出ますし、相手を待たせるのは私のポリシーに反します。行きますよ」


「…プピーナ」


ようやく体を起こし、雅治はラケットを持った。


「名前さんも迷惑ならシメて大丈夫ですからね?」


「お前さんは絶対に紳士じゃなか」


そんな2人に苦笑をもらしながら、頑張ってと言えば当たり前じゃきと返される。



背後から迫る幸村の黒い気配には、気づかないフリをした。







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