04
「練習試合?」
忍足のボトルの中身を粉:水=9:1というもはやドリンクとは言えない状態のまま蓋を閉める。嫌がらせ以外の何ものでもない。そんな悪意の塊を一瞥しただけで、そこには触れずに若は続ける。相変わらず薄情な後輩だ。
「らしいですね。まだどこでやるかは調整中ですが、来週の日曜日です」
「相手はー?」
宍戸のドリンクを真面目に作りながら尋ねる。彼は若干薄めた味を好むので粉は気持ち少なめだ。
「青学…とは言ってましたが、もしかしたら他からも来るかもしれません」
「ふーん」
取り敢えずレギュラー陣全員分を作り終えたので粉などをしまうと、何を言うでもなく若がドリンクを持ってくれた。
「いつもありがと」
「イエ、先輩に持たせると不安なんで。身長的な意味で」
「よーし、歯ぁ食いしばれ」
「どうせ届かな…ちょっと俺のタオルにドリンクかけようとしないで下さいベタベタになる!」
歯ぁ食いしばれと言いながらまったく行動が伴っていない。忍足用のほとんど粉なドリンクだけを取り、若のタオルを人質にした。
「…ガキですか先輩」
「中学生はまだガキです」
俺が悪かったですとまったく反省の色が皆無な表情で謝った彼に仕方ないと許してやれば、また重力が仕事を怠けた。
「なんで日吉とばっか仲良しなんですか!」
いつの間にか長太郎が現れ、がばりと抱き上げられた。視線を同じ高さに合わせられると足がぶらーんとして不安定だから落ち着かないとか、この抱き方は…というか持ち上げ方は腕が疲れないかとか言いたいことは色々あるが真っ先に言いたいことを簡潔に述べる。
「下ろせ」
「嫌です」
間髪入れず、ってこういうことを言うんだろうな…って早さでの返答だ。
ていうか若のヤツさらっと逃げやがった。覚えておけと心中呟く。
「俺にも構って下さい」
「私が構わなくても自分からくるくせに何を言う。あ、部室に向かって」
コートに向かう足を部室へと転換。その素直さを他にも生かして欲しい。切実に。
「………またやってんのか」
部室に入ると、亮が複雑な視線を寄越す。
「なんとか言ってやってくれ」
「まぁ良いんじゃねぇの?跡部のヤツ、今日は生徒会で遅くなるらしいから」
「本当ですか?!」
「余計なことを言いやがって…亮のドリンクも粉多めにしとけば良かった」
「“も”ってことは忍足あたりはその嫌がらせドリンクなんだな」
ちくしょう、ダブルスだからか飼い主だからかは知らないというか多分両方だろうが彼は長太郎には比較的甘い。いや部活では厳しいがそれ以外の点では甘い。
(跡部、早く来ないかな…)
まったく離す気配のない長太郎の腕の中で、うっかりそう思って…よく分からない類の敗北感を味わった。
(やっぱ、今のナシ)