03


そもそも、私はクラスの女子から可愛がられることはあっても、男子に愛でられるようなことは滅多に無かった。あ、亮とかジローは付き合いが長いから別として。

平凡とは少し離れたこの氷帝学園で、ひっそり生きていたハズなのに。


「あーん?初等部のガキがこんなとこで何やってんだ」


「ねぇ、眼球がビー玉なのかな?聴覚が正常なことを祈って言うけど私、中等部3年だから」


友人が音楽の教科員なのだが、委員会が被ったとかで。代わりにタロちゃん(43)に頼まれていたプリントを提出しに行こう…と音楽室に入ったら、入り口付近というとても邪魔な位置にいた人にぶつかった。

眼球がビー玉な彼が音を立てて固まるのをさて置き、タロちゃんは興味深そうに言った。


「ふむ、あの跡部相手に臆すこともないか」


「跡部…?あ、それよりこれ宜しくお願いします。友人は委員会だそうで、私は代理です。そしてサヨナ…わっ?!」


ひょい。

プリントを渡して逃げようとすれば、背中から抱き上げられ確保される。誰だ貴様私の背後に立つなと振り返ると、見たことのない眼鏡野郎。しかも丸眼鏡…が、妙に似合っている。


「なんや可愛い嬢ちゃんやなぁ」


「跡部ー、お前の眼球はビー玉なんかじゃないから現実に戻ってこーい」


「はっなせ!」


じたばたじたばた。やたら低い声に脳内警報発令。もう1人の割と親近感の湧く(背が高くないの意)おかっぱ頭は跡部とやらに構ってるので助けにはならなそうだ。


「あれ、名前がいるC」


「忍足離してやれよ」


「お、2人共。助けて乙女のピンチ」


必死にもがいても抜け出せない。一応教師のいる前なので本気で殴るのも憚られ…いや正当防衛だから許されるかと考え直した時。


「忍足は…本当にいつか捕まるんじゃない?」


一番最後に来た、切りそろえられた髪が印象的な人が眼鏡野郎から私を奪還。床に下ろしてくれた。


「あ…りがと」


「うちの部員が迷惑かけてゴメンね」

おお出来た人だ。申し訳なさそうな表情に、常識的な雰囲気が滲み出てる。


「………テニス部の集まり?」


亮とジロー…そして何となく見覚えがある面子的に氷帝で最も女子人気の高い部活の名が口から出た。分かっていたなら時間をズラして来たというのに。


「あー、プリントて監督に渡すヤツだったのか」


「そーいやタロちゃんテニス部の監督だったね」


部活に入っていないので、誰が何部の顧問かなどは疎い。というか、音楽教師がテニス部の顧問って何をこじらせた結果だろうか。


「なぁ嬢ちゃん、名前教えてくれへん?飴ちゃんやるで?」

「見知らぬ人と胡散臭い眼鏡から物を貰うなって言われてるから断る。あと私の用事は済んだから早く教室に戻りたい」


何故か私はジローに捕まっている。まぁ教室ではいつものことなのだが。


「いや、それは駄目だ」


「へ?」


「ジロー、退いてろ」


するりと体を掴まれたと思ったら軽々しく抱き上げられて本日2回目の床とサヨナラ。初対面で抱き上げられたのは親戚を除いたら初めてだ。…テニス部には常識が無いのだろうか。


「監督、先ほどの話ですが…」


「あぁ。名字なら構わないだろう」


「いやいや全力で構うから!ていうか何の話?!」


暴れないようにしっかり抱きとめられているので顔が近い。あ、泣きボクロだ悲しい恋をするって言うよね!…じゃなくて。


「お前、マネージャーになれ」


急展開過ぎると思いませんか?私は思いました。


「………君は、耳まで飾りだったんだね」


眼球はビー玉で耳は飾り。なるほど、だから顔の造形は良いのかなんて妙に納得してしまった。









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