贅沢な朝
私の恋人は、大変面倒な性格をお持ちになっている。
「迎えに来たぜ、名前」
私の家は確かにここらでは新しいし綺麗な部類だが、あくまで庶民の域を出ない。庭は親の趣味で多少は洒落ているが、近所で浮くというほどではない。
が。
「毎朝リムジンで迎えに来るなーっ!」
超!浮くから!しかもこのあたりの道は比較的狭い感じなのに!
「せっかく迎えに来たんだ。少しは喜んだらどうだ?」
「頼んでない!ていうか景吾が私が電車とか自転車に乗るの嫌がってるだけ!」
「当たり前だ。何かあったらどうする気だ?」
「何も無いってば!」
「チッ、仕方ねーな。可愛い彼女のワガママだ。次からはフェラーリで良いか?」
「メーカーの問題じゃない!」
名前的にはランボルギーニ派だ!全然詳しくないけど!じゃなくて!
私の彼氏である跡部景吾は取り敢えず庶民には想像が不可能なレベルでお金持ちである。それに関しては仕方ない。家が大富豪だろうが平民だろうが騎士だろうが武士だろうが問題ない。
問題ない…けれど。
「景吾さんや景吾さん。毎朝わざわざ高級車で迎えに来るのは止めておくれ。近所であらぬ誤解を受けるじゃないか」
「あーん?別にコレぐらい普通だろ」
「君の目には周りを走るフツーの車はチョロQに見えているのかい?」
「ンなわけあるか。周りと大した差はねーだろっつってんだ。使用法は変わらねぇ」
「使用法が変わらなければ大差ないというのは間違っている!」
「朝からうるせぇな。………黙らせられたいか?」
「………」
やけに色っぽい低音が耳元で聞こえたので光速でお口はミッフィー。それでも騒いだら少々他言が憚られる事態が発生したのは記憶に新しい。
「………」
こてん、と頭を景吾の肩に置くと…何も言っていないのに肩を抱かれ縮む距離。
朝から疲れるのはいつものことだ。
まぁ、実際彼が私を毎日送り迎えしてくれるのにはちゃんと理由がある。
先ほどは何も無いと言ったが…実際にはあったのだ。嫌がらせの類で車に轢かれかけたことが。………私の座右の銘は“売られた喧嘩は倍額で買え”…なので、その時の犯人は…うん、まぁちょっと相応の以上お仕置きはしたが。
それ以来、親よりも景吾は私に対して過保護だったりする。まるで自分がか弱い女の子みたいで、照れくさいような嬉しいような…少し複雑。
「でもさ、」
「なんだ?」
優しい腕の温もりを感じながら、言う。
「まぁ100歩譲って高級車はともかくなんでこんな無駄に大きな広々スペースなの?!よくあの狭い道を来れるな!運転手さん凄い!」
「そりゃ一流の運転手なんだから当たり前だろうが。つーかまだその話か!」
挨拶と同じぐらいに、恒例なこのやり取りはきっといつまでも続くのだろう。
贅沢な我が儘を堪えない、よくある朝の話。