春学園編・3




「あ、そこはやっぱり練習なんだ」


電話越しの相手はブン太で。先ほどまでは雅治とだった。


『終わったら行くかもなー。けど東京だしなー』


「四天はわざわざ来るって言ってたけど?」


『幸村君と真田は他校の文化祭なんか関係ねぇ』


「だよねぇ」


明日は青学の文化祭。また此方に来るのも面倒だろうから、とわざわざ泊まらせてもらった。………不二家に。


『つーか、お前今東京だろぃ?ホテルか何かに泊まってんの?』


「いや…周助宅」


『は?周助って不二周助?』


「うん…まぁ、聞いておくれよ」


私も泊まるとしたら安いビジネスホテルか何かだと思っていたのだが。





×××





「なら、僕の家に泊まったら?」


「へ?」


あとは本番を残すのみとなり、周りが帰宅の準備をし始めた頃。

今から神奈川に泊まるのか面倒だと思っていたらホテルでも手配するかと手塚に問われた。確かにそれは有り難いが、今から面倒をかけるのも…と渋っていたら。


「姉と弟が居るけど、それでも良いなら部屋はあるよ」


「…いや、それも迷惑なんじゃ」


「不二の家なら大丈夫だよーん。よく俺も泊まりに行くし」


それは大丈夫なのだろうか。


「無理にこっちが頼んだんだし、それぐらい大したことじゃないよ」


ね?と王子様のような笑顔で言われて、断りにくい。


「じゃあ、遠慮なく…」





×××





「…と、いうわけなのだよ」


『野郎の家に…単身…?』


「いやでもお姉さん居るから。凄く良い人で美人さん」


『………なら良いけど』


というか、いつから彼は私の保護者に。アレか私が最近部活に出てないから連中の我が儘を抑制出来る人材が居なくて結構兄貴肌な彼が…。


そんな時、自分の名前が呼ばれているのに気がついた。


「あ、ゴメン。呼ばれてるからもう切るね!」


『あぁ、明日行けっか分かんねーけど頑張れよ』


「ありがと」


早口でそう告げて、通話を切る。私は好きに使うよう言われた1人で使うには広い部屋を出てダイニングに入って…止まった。


「えーっと、弟君…かな?」


「あー、兄貴の…?」


互いに初めて見る顔だ。どうしようかと戸惑っていたら、丁度後ろから来た周助が言った。


「あ、裕太おかえり」


「ただいま…って、この人は?」


「僕の彼女」


「え?!」


「うん、嘘は良くないよ」


さらりと言いやがって。にっこりと訂正を入れれば、困惑した様子の弟君と目が合った。


あ、よく見れば確かに似てるかもしれない。















「裕太は聖ルドなんだ?」


「僕は青学においでって言ったのに」


作ってくれた夕食を食べながら、互いに自己紹介。


「名前さんも立海…って、神奈川からわざわざ来たんですか?」


「そうだねぇ」


「で…兄貴の彼女さんではない、と」


「そうだねぇ」


パスタが美味いとか思いながら軽く返せば、不満げな声があがる。


「名前が彼女だったら面白そうなのに」


「それは気のせいだよ」


というか恋人とは面白いか否かで選ぶものだろうか。


「名前さんは演劇だけ出るんですか?」


「うん。演劇が終わったらフツーに遊び回る予定」


「あ、何なら名前に案内してあげてよ。校内はまだ不慣れだろうし」


「………なんで兄貴に言われなくちゃいけないんだよ」


少しだけ不機嫌な声音に、名前は苦笑しながら言う。


「うんうん、見知らぬ先輩より友達と回りたいよね」


「あ、いや名前さんが嫌なわけじゃなくて!」


この年頃と言うのは兄に反発を覚えるもので、些細なことであろと指図されるのは気に入らないだけだ。決して、姉に見劣りしない美人で気さくな先輩が嫌なわけではない。


「でも、演劇は見に来て欲しいな」


にこっと無邪気に笑うその表情。無意識だからタチが悪い。


「ぜ、絶対行きます!」



僅かに頬を赤める可愛い弟に、兄は小さく笑った。








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