会いに行くよ



「…というワケで明日の朝5時半に集合だから。1秒でも俺の時間を無駄にしたら八つ裂き…いや8×8の六十四つ裂きにするから気をつけてね」


八つ裂きって魔王かお前は。
しかも二乗するなよ。

…というツッコミはさて置き、渡されたプリントを折って仕舞う。


「あー、俺起きられっかな〜」


「大丈夫だ、六十四つに分けられてもお前はお前だ」


「丸井先輩酷いッス!」


「とか言うお前も気をつけろよ」


「なんだよジャッカルのクセに!」


「なんでだよ?!」


そんなやり取りを見ていたら、急に肩を叩かれた。


「?」


ぷに。


「引っかかったナリ」


「………どうしたの?」


振り返ったら、雅治の指が頬に刺さる。子供のイタズラみたいだと引っかかったくせに思う。


「名前は朝に弱いかのう?」


「んー、弱くはないよ。なんで?」


「なんじゃつまらん。弱いならラブコールで起こしてやろうと思っとったのに」


「ラブコールってなんだ、ラブコールって」


「あ!なら名前先輩、俺のこと電話で起こして下さいよ!」


「良いけど1コールで出なかったら3枚に卸すけど大丈夫?」


「………自力で頑張ります」


「良い心掛けだ。ていうか私赤也の連絡先知らないし」


青ざめた後輩をからかっていたら、精市がそういやと此方を向いた。


「俺も名前の連絡先知らないんだけど」


「え?教える必要な…、今すぐケータイ持って来ます」


無言で黒いオーラ放つ魔王陛下に素直に従う。


「なんじゃ教えとらんかったのか?」


「雅治とブン太にしか教えてないかも。特に困ってないしあと蓮二は個人情報保護法をシカトして何故か知ってた」


「人聞きの悪いことを言うな。お前の友人に尋ねたら快く教えてくれただけだ」


ちなみにその友人曰く“柳君の役に立ちたくて”。
かなり本気でキラキラと目を輝かす彼女を叱る気にもなれず溜め息をついたのは記憶に新しい。


「まぁ悪用しないなら何だって良いけどね。悪用したらシメる」


「…笑顔が怖いぜよ」


「竹刀を持たせたら確実に負けますからね」


そんな彼らの呟きに真田は何を言ってるんだとばかりに口を開く。


「竹刀が無くとも負けると思うぞ。名字は剣道に限らず武道の実力者だからな」


















「私、酔うから前が良い」


きっかけはその一言だった。
練習試合当日、六十四つ裂きは流石に怖いらしく全員が5分前には集合場所に来ていた(赤也が一番遅かったが)


「俺は一番後ろが良いッス!」


「おま、先輩を差し置いて良い席座ろうとすんなよな!」


一番後ろの席は他の席のように別れていないので広い。
故に後ろの席は人気なのだが。


「名前も一緒に後ろに座りんしゃい」


「仁王君、あまり近寄るのは紳士的ではありませんよ」


「紳士じゃなき、良いんじゃ」


なんて話を振られたのだが。


「後ろは無理。酔うから前の席が良い」


「な、なら隣に…」


「いやそこは俺が隣に!」


誰が隣に座るかで争う彼らを見て、傍観組は溜め息をついた。


「…まったく、朝から騒がしいな」


「つぅか席、全員が2人分座っても余るのにな」


「それだけ隣が良いんだろう。まぁ連中のやり取りが無駄になる確率は96%だがな」


その確率は次の瞬間に100%へと変わった。


「何言ってんの、名前は俺の隣に決まってるだろ?」



爽やかな朝に相応しい綺麗な笑みに、気温は2度ほど下がった。







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