春学園編・1


「あ」


風呂上がり。生乾きの髪にタオルをかけたままベッドにダイブ。ケータイを開けば、着信が1件。


(?)


開けば、予想外な人物名。5分ほど前の履歴だから、今からなら出てくれるだろうとかけ直す。


3度目のコールでその人物が出た。


「ごめん周助、風呂入ってた」


『あぁ、構わないよ。いきなり連絡してゴメンね』


変わらぬ声音は、青学の不二周助のもので。英二や桃ならともかく、彼から連絡が来るというのはあまり無い。


「それで、どうかしたの?」


『君の声が聞きたくなって…と、言いたいところだけど今回は頼みたいことがあって』


「頼みごと?」


『実は結構重要なことでね、出来れば断って欲しくないんだけど』


そんな風に先に言われたら、断りにくいことこの上ないじゃないか。


「………内容による」


渋々とそう答えれば、爽やかな笑い声が微かに聞こえた。


『クス、もちろん分かってるよ。実はね…』










×××










「我が道を阻む者、そのすべてを切り捨てよう!」


右手には竹刀、左手には台本。青春学園の体育館の壇上で私は声をあげた。


「名字さん、格好良い…」


「流石は不二君の推薦」


そんな周助達と同じクラスらしい子達の声を複雑な思いで聞きながら、私は一端舞台から降りる。


「名前ーっ、格好良かったにゃーっ!」


「うん、思わず見とれちゃったよ」


いや、その王子様スマイルの方が見とれる…とか思いながら、返す。


「でも、まさか他校の文化祭の演劇に出ることになるとは…」


苦笑しながら、事の次第を振り返る。















『再来週の土日に文化祭なんだけどさ』


「…蔵達にはメール送ってたね」


拗ねたように言えば、苦笑された。


『名前にも送ろうとしたんだけどね、お願いがあるから止めたんだ』


「あ、そういうことか。嫌がらせかと思ったじゃん」


『まさか。…それでお願いってのがさ、僕達のクラスの演劇に出て欲しいんだよ』


「……………まぁ、取り敢えず理由を聞こうか」


あまりのあっさりとした結構大変そうなお願いを、反射的に断りかけた。が、他校生である私に話が回ってくるというのは、それなりの理由があるのだろう。


『演劇の内容が捕らわれのお姫様を助け出すってありきたりなストーリーなんだけどさ、クラスの剣道部が盛り上がっちゃって戦闘シーンは本気で行こうって話になってね』


「…うん、何か話が見えてきた」


『名前が青学に練習試合に来た時に出来たファン達が“是非あの時の立海生を!”って言うわけ』


「はぁ、」


『それに名前なら王子様役でも格好決まるねって僕と英二の判断で、先生からも本人が良いならってことでお許しを貰ったんだ』


「はぁ、」


『で、幸村も借りて良いって言うからあとは名前の返事1つなんだ』


「………」


なんで自分の知らない場所で許可が下りたのだろうか。


「演劇とか自信ないよ?」


『ん、大丈夫。名前なら何やっても格好良いから』


「………」


随分ストレートな褒め言葉が気恥ずかしい。電話だからともかく、直接なら赤面しそうだ。


「なら、私は別に大丈夫だけど…」


『良かった、有り難う。代わりに出し物の方でサービスするから』


「え、ホントに?やった頑張る」


予想外の報酬にやる気が出て来た。


『クス、じゃあ詳しくは後からメールするから。それじゃ、おやすみ』


その言葉におやすみと返して、私はケータイを閉じる。


(でも再来週、か)


練習が間に合うだろうか、という心配ともう一つ。


(まーた文句言われそう)


赤也と雅治とブン太に。最近俺らをないがしろにし過ぎだと。







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