天宝寺編・参


「美味いやろ?」


蔵に勧められたたこ焼きは確かに美味しいのだが、できたてなのでかなり熱い。


「美味しい。けど熱い」


なんとか嚥下したが、2個目は少し冷ましてから食べよう。


「猫舌なんですか?」


「ちょっとね」


ペットボトルの緑茶で口の中を冷ます。しかし、確かに私は猫舌だが、この熱いたこ焼きを金ちゃんみたいにパクパク食べれる方が少数派だろう。


「しゃあないな、俺が口移しで…」


「光、あーん」


「あー」


蔵の台詞を無視して、少し冷ましたたこ焼きを光に差し出せば、素直に食べてくれた。


「名前、それ俺もそれしたい」


「あー、確かに熱いッスわ」


「金ちゃん凄いなぁ」


「聞け!」


更に一口とたこ焼きを食べれば、疲れたように蔵は言った。


「なんやいつから光と仲良くなったん?俺妬くで?」


「よしよし」


動物にするみたいに頭を撫でれば、複雑なんやけどと返される。相変わらず柔らかい髪だなぁとか思っていたら光が背中から抱きついてきた。


「どした?」


「いや、俺がしたくなっただけなんで特に気にせんで下さい」


「なんや光、デレ期なん?…まぁ、それでも名前は譲らへんけどな」


「いや別に私は蔵の所有物ではないから…って、あれ」


「どないしたん?」


ポケットに入っていたケータイが震える。剣道部からだろうか、と思ったらディスプレイには違う名前が浮かぶ。


「もしも…『ねぇ名前、俺達に何の連絡もしないって何様のつもりなの?…ちょっと俺が話して…』『名前ー、早く帰って来ーい』『つかコレ俺のケータイ!』………うん、さよなら」


躊躇いなく電源ボタンを押した。なんか幸村と赤也、それから後ろでブン太と雅治の声がした気がするが気にしない。


「ええの?」


複雑な表情の蔵に溜め息を返す。


「…あとでかけ直す」


そう言ったら、なら、と光がケータイを取り出した。


「俺がかけてみますわ」


「…知ってたんだ」


「まぁ一応」


そういえばこの前、赤也が日吉がどうのこうの言っていた。結構2年'sも仲が良いらしい。


『財前?どうしたんだよ、いきなり…』


「お前、今名前先輩に電話したやろ。いや正確にはお前ンとこの部長か」


『は?なんで知って…』


「名前先輩なら今、俺の下に居るで」


『はぁ?!』


ケータイから聞こえる叫びと、蔵が光の頭を叩いたのは同時だった。


「赤也ー?誤解が無いよう言っとくけど、光は私の背中に抱きついてるだけだよ」


その隙に光の手からケータイを奪う。


『あぁ、良かっ…いや良くないッスよ!なんで財前と…って柳先輩!』


『名前か?幸村と仁王がお前不足だと嘆いている。出来れば即刻帰って来い』


「あのさ、こっち出発するの明日の昼なんだけど?あと自分のケータイ使いなよ」


『そうか…。なら、幸村と仁王には電話してやれ。ではな』『ちょっ、先輩、俺にも…』ブツッ。ツーツーツー。


「………」


一方的に切られた電話だったが、ホテルに帰ったら必ず彼らに連絡しようと決めた。


「愛されとるな、名前」


「愛が何だか分からない」


光の手にそっとケータイを渡して、うなだれる。


よしよしと撫でる蔵の手が、あまりにも優しかった。






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