害虫駆除は迅速に
場所は氷帝のテニス部の部室。部活開始時間より前の話。
「おい侑士。テメー何名前の半径5km圏内に入った上、廊下でぶつかってやがんだ。取り敢えず新品の制服とその時に落とした筆記用具の類買い直して来いよ」
岳人が忍足の胸ぐらを掴むという、一見イジメにしか見えないシチュエーション。というか、イジメと言って過言ではない。
「いや…あのな、がっくん。色々理不尽やない?そもそもアレは…」
「しかも『忍足君て良い人だね?』…お前ふざけんなよ」
「いやいやいや!ちょっと待ちや、話せば分かるて冷静になり!」
「チッ、仕方ねーな。分かった、話聞いてやるから取り敢えず腹切れ」
「がっくんんんん?!それ何も分かってないで!つーかその日本刀どないしたねん?!」
「跡部に頼んだらくれた」
「銃刀法違反!」
そう叫んだ彼の声も虚しく、王様は薄く笑う。
「俺様に不可能はねぇ」
「1つぐらいはあった方がええって!つーか助けろや!」
「まさか人の女に手を出すようなヤツだったとはな…正直見損なったぜ。生き恥さらすぐらいなら、楽になりな」
「楽どころか苦しむ一方やねんけど!」
「お前、あれほど名前には近寄るな触れるな会話するな視界に入るな同じ空気吸うなって厳命したよな?」
「あのな、岳人。最後のは俺に死ねって言うてるん?」
「酸素ボンベでも使えばいいだろーが」
「部活ん時とかかなりシュールな絵になってまうんやけど!」
「いやそれ以前の問題だろ」
「跡部が言うたくせに!」
「取り敢えず話戻すけど侑士、腹切れ」
「戻り先がおかしい!」
「安心しろ、介錯なら部長の俺が…」
「なんで妙に張り切っとるん?!こないだ観た時代劇に影響されんなや!」
「忍足うっせーよ。岳人、来客だぞー」
そんな誰もが放置するカオス空間に、常識人参戦。
「岳人、ちょっと良いかな?」
宍戸の背には、忍足の命の危機の原因である名前がひょっこり。
「名前!」
その姿に、先ほどまで喰ってかかっていた忍足をあっさり放棄して駆け寄る。
「今、大丈夫?なんだか騒いでたみたいだったけど…」
「あぁ、大したことじゃないから大丈夫だ」
日本刀を持ち出してのやり取りは“大したこと”にカウントされないらしい。
「それより、どーした?」
「あ、今日の部活が急に休みになったから…岳人を待つのに、練習見てたいなーと思ったんだけど…」
だめかな?と小首を傾げる様子が可愛らしい。
「別に構わない」
そんな時、ひょっこりと顔を出した跡部がそう言った。
「マジで!跡部ナイス!」
ぴょんと飛び跳ねて喜ぶ岳人を見ながら、だが、と。
「それより、アレはどーすんだ?」
「あー…」
アレとは、先ほどまで散々な扱いを受けてきた忍足侑士を指す。
「名前、ちょっと待っててくれ。先にやることあっから」
「 ? 別に、良いけど…」
彼が去ったあと、跡部が胸元で十字を切っていた。その行動を不思議に思ったが、すぐに聞こえてきた悲鳴で納得。
(忍足君…ごめん)
しかし、ここで忍足に声をかけると彼は更には酷い目に合うと宍戸から聞いていたので、名前も小さく十字を切った。
……………
※管理人は侑士が大好きです。