天宝寺編・弐



「えー、明日までしか居らんの?!」


「まぁ、そもそも来た理由が助っ人だったし…」


翌日。まだ試合までは時間があるからとテニス部のマネージャー手伝いをしながら、金ちゃんとそんな話をしていた。


「もっと一緒にいーたーいー」


「金ちゃん、あんま名前を困らせたらあかんで」


腕にしがみつく彼を宥めながら蔵は言った。


「今日も一緒に帰ろうな!」


「はいはい、次はパフェでも食べる?」


よしよしと頭を撫でれば、良い笑顔が返された。















「はぁーっ」


流石に試合は疲れる。自分の番は終わったので近くのベンチに座っていたら…、


「あれ、名前先輩」


「サボリ?」


「いやなんでですか…。今は休憩ッスわ」


「なんだつまんない」


光がやって来た。彼は私の隣に座って、自らのドリンクに口をつける。


「此処、俺の特等席なんで」


「涼しいからねー、私も四天にいた時はよく座ってた」


そんな他愛ない話をしていたら、いきなり。


「光…?」


こてん。私の肩に頭を預けて、右腕に絡む彼の両手。


「アンタが俺らのマネージャーやったら良かったのに。なんで立海やねんアホ」


「うわぁ素晴らしく理不尽。四天に居たら私まだ剣道部に居たよ」


「………なんで、立海では入っとらへんの?」


「大人の事情」


誤魔化すように笑って、彼の鼻をつまむ。少し顔を歪められたが気にしない。


「名前先輩、」


「何?」


鼻をつまんだ手を掴まれた。…と、思ったらするりと上半身だけ倒れて私の膝に頭を置く。…つまり、膝枕。


「アンタ、なんでこんな細いのに柔らかいんスか?」


「その発言はセクハラにカウントされるけど大丈夫?」


「俺は事実しか言うとらんし」


そう言って、瞳を閉じる。寝る気かこの野郎。


「偶には、俺に構えや」


拗ねたような口調に苦笑して、その頭を撫でてやる。



気持ち良さげな寝顔を眺めていたのは、謙也に見つかるまでの話。















「ほんっと人が名前先輩とイチャついとる時に…」


「おま、部活サボって何やっとんねん!」


「何ってだから名前先輩と…」


「やかましいわ!」


「どっちやねん」


はぁーっと溜め息をつきながらも、彼は後ろから私の肩に顎を乗せて抱きついている。


「まぁ、名前の膝枕は確かに絶頂なんやけどな」


「えぇーワイもーっ!名前、ワイにも膝枕ーっ!」


私の両手を握った金ちゃんを、爪先で軽く蹴りながら光は言う。


「あかん。遠山にはまだ早い」


「なんやて?!1つしか違わんくせに!」


「………私を挟んで喧嘩するな」


ぎゃいぎゃい騒ぐ彼らから逃れて、息をつく。先ほどから光がべったりだったから、体が軽く感じられ…と思ったのも束の間。

蔵が背中に乗るように抱きついてきた。


「じゃ、次は俺に構ってな?」



どいつもこいつも…とは思いつつも、抵抗は無意味と、されるがままにしておいた。







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