穏やかな彼らのサボり事情
指を切ったので、保健室にて絆創膏を貰いに来たのだが。
「また、サボり」
カーテンの隙間から見えた髪色で、すぐに誰か気付く。起こさないようにその傍に寄れば、詐欺師とは思えない可愛らしい寝顔。
「………」
普段とは違った無防備な表情に、思わず笑みが零れた。なんとなく手を伸ばして、頭を撫でる。
規則正しい寝息と、穏やかな天気。自分も眠りの世界へと向かいたいところだが、授業をサボるのは良くない。
「雅治、起きて?」
ゆさゆさと肩を揺さぶると、小さな呻き声。
「………ピヨ、」
「おはよう。そろそろ起き…」
「ピリーン」
ぐいっと腕を引かれれば、体は前のめり。ベッドに上半身だけ上がる感じだ。
「まだ眠いぜよ」
「………雅治君?」
頭の後ろと背中に手を回されて、抜けるに抜けられない体勢。近い距離に、胸が騒ぐ。
「もっと近くに来んしゃい」
そう言われて、体を布団の中に引きずり込まれた。いつもより高い雅治の体温を零距離で実感。私の鼓動、加速。
「んー、柔らかいナリ」
すりすり。くすぐったいぐらいに擦りよって、首筋に顔をうずめられた。いつの間にか腰に回った手にしっかりとホールドされていて、逃げられない。
「えーっと、」
何だろう、このシチュエーション。私と彼は恋人同士ではあるが、保健室のベッドで2人。
けれど、卑猥というわけではなく。
「あったかいぜよ〜、良い匂いナリ」
例えるなら、飼い猫が布団に侵入してきて全力で甘えてくる、みたいな。
そう思うと、妙に愛でたくなって頭を撫でる。気持ち良さそうに目を細めるのなんか、まさに猫そのもの。
「ところで雅治、」
「まーくんじゃき」
「………ところで、まーくん」
「なんじゃー?」
何だか普段よりも甘えたレベルが高い。ぎゅうと抱き付いて、擦りよって。
「授業、始まるんだけど…」
時計を見れば、あと2分。そもそも私は、雅治とごろごろする為に保健室に来たわけではないのだが…、
「やーじゃ」
「やーって、雅治…」
子供みたいに顔をうずめて逸らすくせに、私を腕から出してはくれないらしい。
「名前と、こうしてたい」
甘えるみたいな、幼い声。普段は可愛いとか言うと、子供扱い反対ナリとか言われるのだが。
「雅治、可愛い」
「知っとるもん」
………あぁ、多分もうすぐチャイムが鳴るなと冷静な思考が告げるけれど。
あまりの可愛さに、陥落。
「仕方ないなぁ」
そう返せば、ふわりと笑顔。いつもみたいな余裕そうな格好良いそれじゃなくて、無邪気な、幼い笑み。
「名前大好き!」
「知ってる」
そう笑えば、ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられた。
あ、チャイム鳴っちゃった。
「あーあ、気持ち良さそうに寝やがって」
保健室へと絆創膏を取りに行った名前が戻って来ないから、どうかしたのかと探しに来たら。
ベッドで2人、すやすやと寝息を立てている。
「ったく、一瞬焦ったろぃ」
両者の衣服が全く乱れていないのと、案外仁王がヘタレなのを知っているからすぐに安心したけれど。
「………名前、」
「………」
無防備に眠る詐欺師の、甘ったれた寝言が妙にムカつく。真田か柳生に今すぐチクろうかと思ったのだが…、
「………」
安心しきってすやすやと眠る、名前の横顔。
(…コレでチャラにしてやっか)
それが、あまりにも幸せそうで可愛らしいから。
俺はカーテンをきちんとしめて、そして保健室の扉も閉めてから中庭へと歩き出した。